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「全然 ダメね」
男は大きくため息をつく。
目の前に対峙する女は立つのがやっとといったところだ。
人気のない郊外で戦闘訓練をしているのも、入って間もない女の実力不足が目に見えたからだ。
それゆえに怪訝だ。何故、団長はこの女を選んだのか。いや、こいつが志望した際に、採用したのか。
身体、頭脳、名跡、全てにおいて劣っている。
それはたった今、女も思い知ったところだろう。
「戦闘知識 ない。反応 にぶい。必要条件満たしてないよ、お前。私に刀、握らせるまで 根を上げるなよ」
入って間もないが3日は経った。
次の争活(争奪活動)までに、使い物にならなかったら、こいつは始末することになっている。
つきっきりで監視下に置き、その役割を任されたのが、中でも随一に鬼畜、人道無き男
フェイタン__。
男は、ただてさえ時間を拘束されることが嫌で、女の指導などまっぴら、この上なく億劫であった。
「どうした?」
男は息を荒げる女に、更なる煽りをかけた。
「こい」
仁王立ちで待ち構えていると、女は足元の地面に縋りつくかのように膝をつき、手をつき、額をついた。
とうに、歩み寄ることすら出来ぬ貧弱な生き物…。笑えない。
「お前、なんで蜘蛛入ろうとおもた?」
「……」
幻影旅団。賞金首Aの指名手配集団。身元不明、同じ場所に滞在することはなく、所在もしれない。
見るのが困難なことから、“幻影”と名がつけられるようになった。それでも世界中のハンター達は幻影旅団の首に夢を投影し、狂気を背負って首目掛けて追い続ける。
無時効、無保証。追い、追われる身。
そんな危険極まりない集団の1人になる、つまり、命に関わることを認識している。
そのリスクを負う以上に、旅団に入る理由があるはず。
しかし、女の口からはそう易々と出させるものではなかった。
「チッ」
食えないやつ。弱い癖に、入る余地がない。
フェイタンはそう思っていた。
流星街きっての、選りすぐりの実力派集団、その中に、見知らぬ部外者、或いは付け焼き刃にも満たない女がいる。それだけが無償にイラついて仕方がない。フェイタンという性質が発揮して神経という神経が、駆り立てられる。
選ばれしものだけだ。
ここにいられるのは強者。
私は選ばれた者としてここに存在するのだ。
一方で
コイツハナンダ……?
吃逆のように無作為に突発した怒り。ところ構わず飛び散る線香花火のように、バチバチとした嫌悪と蜘蛛としてのプライドが女を拒絶する。
今まで高みにあった誇り高き集団が、この女1人の血で堕在するかもしれない……それは避けねばならない。こいつはふるいにかけ、除けなければならない。
眉間の隙間が徐々に閉じていく。
傾げた首もとが痛い。肩腹も痛い。
しかし、フェイタンにとって、対峙するものの能力など関係はなかった。
例え秀逸なものが入ってこようとも、やはり許容する心など持ち合わせてはいない。
笑止、女の末路とは無駄死にと目に見えている。それは変わらぬ。
それでも、女を見るだけで、癪に触るばかりだ。周囲は知ってかいなか、平然と様子を聞いてくる。
こいつは死ぬ、いずれ……
そう見定めた男が、アクションを取ることも無かったが、奇しくも慣れというものは2人の距離をほんのすこしづつ近づけていた。
そう、気が付けば彼女が男に刀を握らせていたように
男は自身の内なる変化を感じていた。
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