男が部屋に入った時、警戒と同時に失態の怒りを覚えた。
3日間は風呂にも入らず、飯も食わず、女から一寸たりとも目を離さなかったというのに、女が風呂に入った隙、外に出やり戻れば姿が消えている。最悪な事態だった。
気が緩みすぎだ!と自分を苛んだ。
「チッ……」
追うしかないだろう。見つけたら殺す。その権限はある。見つからなかったら、引き返す。
……そんな簡易な話ではない。
女が逃げたと言えば、団長が凄まじい剣幕で咎めてくるに違いない。
だからこんな配役は嫌だったんだ。
クソッ!
焦燥した男は誰にでもなく、罵倒した。
そして、一室から外へと向かったその時、
部屋の何処かからあるはずもない摩擦音が聞こえた。
だが何もない。物がないのだから摩擦なんて起きようもない。
音の元へとゆっくりと近づく。すると……
頭部が見えた。
身を丸めて眠る女がいた。
今夜、女にとってベッドと壁の狭間は穴のようだった。
「チッ、余計な心配 させやがて」
複雑な心境を孕ませて、眠りについたのが、彼女の翳る表情から見て取れる。
ついさっきまで、この室内で響いていた鳴き声と共に、彼女の影が浮かぶ。
男は壁に背中を倒し、そのまま座り込んだ。
月光に照らされたベッドを隔て、彼女を見ながら次第に眠りについた。
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