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『キミの髪はどうしてそんなに長いの?どうしてそんなにクルクルなの?』『どうしてそんなにひらひらしたものを着ているの?』

一人の『赤』がそう言った。

『あなたはなんで髪にこだわるの?』『キライよ。こっちにこないで』

独りの“少女”がそう言った。

『そうだ。キミはキミのじゃなくて、“姫”だった。そうだった、そうだった』

『そうよ、“赤”。謹んで呼びなさい』


ほぼ同じ身長の『赤』と12歳の“姫”は出会えばこんな会話をする。
姫は露骨に赤を嫌っており、赤は執拗に姫に話しかける。
多分、赤の数少ない“関心”のふたを開ければ、中には少女がいた。

実は今日、ダンスホールで誕生日パーティーが開かれる。蝋燭の火はきっと13本だ。
姫は機嫌がとってもよく、ちょっぴり背伸びしてブロンドヘアにはカーリングがかかり、ブルーのドレスと蝋を垂らしたみたいな真っ赤なリップ。花の冠はつけたままだった。
勿論、赤にも年齢というものがありパーティーはないが、それとなく小さなケーキを差し出されちょっとした欲しいものがあればそれを貰ったりする。しかし、赤は特別な日に本当にちょっとしたクレヨンをチョイスするような変わり者。いつでも言えば買えるものを、買い足して欲しいと頼むのだ。

実は赤と姫は誕生日が7日だけしか違わなかった。そのことは、初めて出会った1度目の誕生日に教えていたが、1度もハッピーバースデーと聞いたことはない。
なんせ教え方が普通じゃない。赤は一言、
『キミとはラッキーな距離』と言っただけ。
そんな伝え方ゆえに姫の理解にはまだ遠く・・・寝て覚めた次の日には2人ともすっかり忘れていただろう。

蝋燭の火は拭き消され、少女はまた一つ姫に近付いた。そう思った姫の仕草や言葉はまったく少女らしかった。
ダンスホールのテーブルやら何やらは、掃除機に吸い込まれたみたいに、綺麗さっぱりに片付けられていた。

7日後の前日。赤がプレゼントにねだったのは『お化粧セットと奇抜な生地』だった。
次の日は小窓を鏡代わりにして一日中紙やペンに見向きもせず、今度は自分の顔に落書きをすると、生地を使ってまた一芸を増やした。
赤の誕生日、なんとも不思議な【異形な格好】が誕生したのだった。


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