『うそつき』




げに ゆゆしき男女の光景だった。

淫乱な男にか弱そうな少女が、正方形の部屋の左中央ベッドに座していた。

『どうしたの?』

って、紳士ぶって・・・聞くんじゃなかったなあ。

少女が『後めたい』と蹲りながら

直前に悩みを打ち明け始めるところで青年は後悔する。

それでも普段の私生活で突然言うのも可笑しいととれたけれど

こんな殆ど全裸の状態でカミングアウトするのもどうかと思った。

しかしボクの彼女へ感じる美的観念は微変もせず、確かに美しい。美しいけれど

ボクの納得基準のずっと低いところにある。

コク・・コク・・コク・・

時計の音が良く聞こえる室内

ああ、シーツに包まる彼女が愛らしく、愛おしい。

大丈夫だよ、と言って聞かせた。

『とにかく、落ち着いて』とも言った。

勿論、彼女にではなく自分に向けて言う方が正しかった。

なんせ彼女はこの状況下で、顔色一つ変えていないのだから

ボクはもう一度

(とにかく、落ち着いて)と言った。


さながら医者にでもなった気分でいながら
手始めに検診でも行おうと思う。


「すぐに良くなるからね」

そう言って、でも半分は演奏家みたい
〔奏でてあげよう。愛の調べ。〕という気分の方がピンとくる。


「ひぁっ」

ちょっとした悲鳴はご愛嬌。

存外、“半ば強引”の出だしは快調で
くまなく愛撫することは信頼強奪にも役立つのだと、道化に教えられた。

キミはしきりに“イヤ”と拒んでいた。
それが“もっと”と聞こえる人間は
どうやらこの世界に僕だけじゃあないらしいから安心した。

蛇の尾のようにしなやかな舌でアイスのように舐め回し、ガムとゴムにベトリとコーティングされた彼女の艶かしい姿体に、改めて見初めてしまう。

(ううん・・・素晴らしい。)

これが一つの芸術でなくて何なのか。

我ながら『トチ狂っているぼく』の愛行為は
キミから微笑みを奪い涙を滲ませてしまっているけれど
どうか分かってくれないか

この状況下でなくたってボクは

どれほどの愛かを行為で示し、または比例させるに違いない。

「いい子だね」

褒めるとあどけない表情をするから
心なしか、悪知恵は使いようだなぁって自画自賛する。

「気持ちよくないのはね・・・愛がないからだよ」


「ほんと?」



キミはすっかり、期待してくれた。

嬉しいな。口角を上げずにいられない。

ぼくの口車に眩惑でもされたみたいな顔をしちゃってるからかもしれない。

スー。流れるように指先が歩く

君というものをたしなめたはず。

なのに、満足などしていないご様子で

悩みというものを攫ってみせると思った矢先

どうしても煮え切らない心の水面。

どうすればいいかって何もかもやり場に困る。

これではまるで、医者でも演奏家でもない。

『前戯の愛好家みたいだな』って可笑しくなったら

君もつられて微笑んだ。

おまけにぼくの唇を啄ばんで、『好き』と囁いた。



・・・やだなぁ


ボクから嘲笑を奪うだなんて


どうしてくれるの?


・・・


もう惰力には逆らえなくなっちゃった。


歩いた先で大きく開かせ

『もっとよく見せてごらん』?

と囁き返すと

くっきり浮かぶ二つのリンゴちゃん。


どうやら熟したらしい

もぎ取った後に“手の平で砕けて”くれるかい?

それとも“甘味を堪能”しようか?

なんてね・・・こう見えてぼくは我慢強い。一方で 『気まぐれで嘘つき』って思ってるけれど。

さてお遊戯はおしまい


『いち』『にの』『さん』


で、落ちた君が


テンポ良く入り込んでくる。


・・・

『あっ』

・・・

『んっ』

・・・

『やっ』


打てば響く喘ぎの音(ね)。まるで一つの曲芸さながらに

垢のない純白の肌で素直に反応してくれる。

正に刹那の煌めき・・・それはまごう事なきイノセント。

過去にこの経験を舐めたことがあるだなんて

そう聞いたぼくを疑わせるほどに見せつけてくれる。

やがて君は、刺激にびくつきながら寝入るように昏蒙してしまった。

ズルリと抜てみると

白いシーツには鮮血の血が点々としている。

『やっぱりキミはうそをついてたの?』

もぬけの殻みたいに動かなくなって、答えない。

かくいうボクも『気持ち良く』させられないうそつきだ。

さっき言った言葉を思いの外、早くに後悔した。

だって、キミに絶頂を与えられないなら
ボクは汚してしまっただけじゃないか。

さっきのキミを思い浮かべながら
血生臭い白で包んでやった。

ああ、愛らしいキミ。

それでもキミは美しい。

美しいことに変わりはないけれど







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