第4話〈パントマイム〉



文字数が2倍?ぐらいに増えてしまいましたのでフォントサイズを更に小さくしました。
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PM19:00。
カタカタカタ・・・。
蹄(ヒヅメ)の音が心地よい。
ざわざわざわ・・・。
葉のざわめきと木漏れ日が、午後の平穏さを引き立てる。
そんな自然に包まれる時、恩恵というものを知る気がする。
この世界はそんな見慣れた存在の助力の元に存在し、美しく輝く・・・。
『着きましたぞ』御者(ぎょしゃ)。

ぐぅー。ぐぅー。
美しさを乱すが如く。実は出発から僅かで居眠りをした護衛兵。
二人は到着までの間、フロントの鼾(いびき)に苛まれていた。
二人はフロントを横目に見る。

『フロント、起きて!』姫
『ぐがっ!』フロント

道中の長い微睡みから覚めるように一行、目を瞬かせた。
城下町が、いつでもだれでも入っておいでと歓迎する。

『では、我々は行ってくる。ここで待っていてくれ』
『はい、フロント殿。皆様お気をつけて』
屈曲45度の御者が小さくなってゆく。
同時にだんだんと視界に大きく、気づけば街の中にいた。


同じような家がずらり。路面店が複数。緩やかに下り坂。それは赤と姫には新鮮であった。
『さて、どこか賑やかしによい場所を見つけましょう。私もかれこれ訪れてないもので・・・確かあっちのほうに大広場が』フロント
あれだけ浮かれていた姫は、フロントの背後に隠れていた。街の雰囲気に怯えているようだった。
『うーん、なんだか人気も少なく・・・』フロント
赤は思ったよりも平常だった。
いつもの赤と比べれば一目瞭然に、大人しいものだった。
けれどフロントも姫も、いつもの赤を普段から見ているわけではない。
祝賀パーティーや、廊下ですれ違うぐらいで、とくに会話などはしない。
それは二人に限らず、皆が交流を深めようとはしない。深入りしようものなら、その仲間と思われるやもしれぬと恐れるものもいる。赤は謎多き生き物だ。

通行人はそんな3人を物珍しそうにして見ていた。もちろんながら、ほとんどの視線を赤が集めている。
すると、通行人に混じって一人の鎧男が現れる。
『お疲れ様です!!』護民官、敬礼。
『うむ』フロント、敬礼。
赤と姫には、フロントが奇しくも偉い人のように見えた。しかし、地位というものには無関心な様子。

『最近は城の護衛をしておられるのですか』護民官
『どちらかというと、王子の近衛兵といえようか』フロント
『グラーシス王子・・・・めっきり見なくなりましたな。最後に見たのは・・・1年前のことでしょうか。皮一枚向けたように白くなって、亡霊に足を掴まれたようなお姿でしたな。その後は病気がちと伺っております。お体の具合は如何なのでしょうか』
『干からびた白蛾の幼虫のようだ。あのままではいかん、白蛾が王では皆が心許ないだろう・・・と、王は言っていたな』
『左様でありますか・・・』
『ところでこの街は__』
『ええ、前から__』
フロントは会話に没頭した。二人が先へ歩くことにも気付ずに・・・

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『広場だ』赤が指差す。
『何をするのかしら?』
『聞いてないの?王と約束してるんだよ。この頃街が衰退しているからね、活気づけしようと思って』
『衰退って・・・?』
『それはボクからは言えない。キミがショックを受けても困るわけじゃないけど。』
『何よ、勿体ぶらないで!』
『そうだね。例えばこの民間人が極悪非道な君主にムチ打たれ、奴隷のように重労働をさせられてたり。さもなくば方針についていけなくなった。ということが起こりうるのなら、衰退の原因はおのずと・・・!』
『あなた・・・口が過ぎるわ』
『ジョーダン、ジョーダン』
____赤思う。____敢えて言わぬが____仏とな。


やがて王との約束を果たすべく、町の中央広場にいくも何やら人集りがあり既に占領されていた・・・・。
近づいて見れば芸人がパフォーマンスをしている。
『一足遅れだったのかしら』
『でも無駄足ではないさ』
『おや、君。これ、君』
壇上の芸人が何か言っている。
『ぼく?』赤
『そうさ。そんなに目立たれたら顔がなくなる。それ、どうだ。何かするフリをやってみるか』
と、芸人。

ひけらかしていたパフォーマンスよりも、赤が視線を占めてしまっていたからだ。
芸人は貴族の身なりをした連れといることをしっかり目に入れていた。
そして一目で気付いた。赤は素人としてでは無く、あくまで同じ系統の端くれである事を。それを知った上で壇上に誘いあげる。
宮廷の道化が、自分と何が違うのか。そんな闘志が垣間見える。
どこから見ても子供。赤っ恥をかくことだろう、と鼻で笑う。あわよくば、自分が宮廷に招かれるかもしれない。
そう思えたのは束の間だった・・・

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赤は壇上に立ちあがると、軽い一礼。
その場で倒れると目をつぶり夢を見る。
行い始めたのはパントマイム。タイトルは〈朝の目覚め〉
起き上がり、固まった背筋を伸ばす。(まだ眠いなぁ)あくび。
カーテンと窓をおし開けて、風を感じる。(今日もいい天気)
沸かしたポットを持って、カップに入れて飲む。

・・・フリ。

その動きのキレの良さときたら、本当にモノがあるかのように思わせる。
椅子の角度や、窓の高さ、カップを揺らす仕草は何も言ってないのに『アッチッチ!』言葉が聞こえるかのよう。
最後は得意のアクロバットでしめて、一礼。これが宮廷道化の意地と言わんばかりに見せびらかした。

____おお!素晴らしい!観客がチップを投げ込んだ。壇上という賽銭箱に散らばる硬貨は、1ジェニーばかりでは無く100ジェニーまで落ちている。
これは芸人のように“知っている者”からすれば、それはもう凄いことなのだ。
芸人は実に屈辱的であった。赤っ恥をかいたのは自分ではないか・・・本当に顔がなくなってしまう・・・

『これ、ぼうや。何かするフリが上手いな。チップを拾っていくといい、うん』

『見えない価値なんていらないさ。けれどそう言えるのも、明日があると心の隅のどこかで感じているからかもね。ぼくは小さなコインじゃ買えない何かを求めてる。例えばキミと会わないと得られないもの』

赤は、風変わりな帽子を指差した。
『こんなのでいいのかい?』と、言って帽子を差し出す。

『ごらん、ボクは多くの注目を奪ってしまった。奪うつもりなどこれ1ミリほどもないのに。ボクはただ、自分の心に従って動いたんだ。例え誰かに見られなくたって、誰の拍手も受けなくたって目的を忘れなかったボクの勝ちだね。もしお兄さんの敵がボクなら、この帽子を取り返しにきてよ』

赤はツイスト帽を被って、意地悪そうに笑った。
芸人は血相を変えていた。
『取り返す、取り返すとも・・・!』
だからキミは伸びないんだ、と赤は微笑んだ。

その頃、退屈に痺れを切らした姫は広場から離れていた。

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『これはお珍しい、赤薔薇のお姫さん。迷子かい?』
フードを被った顔の見えない男が、憚かるようにやってくる。
『ごきげんよう、迷子ではないわ』姫
『いかがですかい?とれたてのバラ』男
『白薔薇ね』姫
『ああ、これは失敬。お望みなら・・・肉を裂いて赤に染め変えましょう・・・』男
不気味に笑った。
『おい、貴様。何の用だ?』フロント、登場。
『これは失礼、お邪魔なら直ちに消えましょう』
男は逃げるようにそそくさと広場の方へ向かった。
『どこへ行かれたかと思えばここにおられましたか・・・。ところで道化はどちらに?』フロント
『さあ・・・・わからない』姫

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『ヒソカ様・・・ヒソカ・モロー様』
少年は辺りを目配せする。

『こっちです。6時の方向』

路地の人影に気づくと、少年は路地の闇へ入り込んだ。

『ああ・・・ヒソカ様!あなたなのですね?まさか、あの日の約束を覚えてくれていたとは・・・』
現れたのは黒髪に青い眼を持つ、若い男だった。
『そっちこそ大したものだよ。リア。こんな変装をしているのによくボクだと分かったね』

『一目見てあなたと分かりました。どんなお姿になられているかと楽しみでした、また一層端正になられて・・・』

『それは?』

『白薔薇ですよ。しかし、ただの白薔薇じゃあない。ナイフより危険で、悪魔より不吉____高潔を汚された彼の怒りにより、あれから100年枯れないまま生きているのです』

『念というやつか・・・・・』

『もはや・・・あの真実を知るのは私たちのみです。こうして会ったのも必然なのでしょう。ヒソカ様・・・あなたの亡き父上様も願っておられます』

『ボクは復讐に身を委ねたりはしないよ。あくまで約束だからさ。そうじゃなければここにはいない。善悪なんてどうだっていいんだ。善でも悪でも血をくぐってきた者の心は皆、汚れている。僕たちのような者の心臓には、その際のはねた泥がついている。消えない形となって、負わされているんだ』

少年は懐から袋を取り出した。

『それはまさか・・・』

『水銀入りの白粉。これをひとたび吸えば歯がもろくなる。手に入れるのに時間がかかった』

『・・・・』

『誰かがこれを利用して、企んでいるんだ。何か恐ろしいことを・・・』

『何か思い当たる節が?』

『ないよ。けど、なんとなく感じるんだ。リア、これを持ってポワレのところへ行ってくれないかい?』

『分かりました。ところで・・・事が済んだ後は手筈通りでよいのですね?』

『うん。じゃあそろそろ行くよ、全てを払拭する為に』

『愛しております、ヒソカ様。どうかご無事で・・・』

『クリスティーヌにもよろしく』


少年は背を向けて、手を振った。
二人は別れた。
ヒソカは陽の当たる通りへ、リアは路地裏のさらに奥へと・・・・。

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街の入り口に待機していたフロントと姫の元へ、赤が現れた。
『もう、どこ行ってたのかしら!』姫
『日が暮れてしまいますぞ』フロント
『道に迷っちゃった』赤
3人は退屈そうに立っていた御者の元へ。
カタカタカタ。カタカタカタ・・・。
蹄の音を聞きながら、闇は深まってゆく。

帰城した3人を、慌てて迎える門衛。
姫の不在が王にばれたら一大事だと、この世の終わりのように言うので、姫とフロントは急ぎ足で城に向かっていった。
赤は空を見上げた。

『今夜は・・・雨だ』



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