シロとクロ





少年はそれをクロと呼んでいた。

クロは長い毛並みが特徴的だったからそうつけられた。それに星のきらめく夜空色をした目を持っていた。
クロの横にはいつもシロがいた。
シロは毛並みが白くて、それ特有の猫毛だったし、クロよりも明るい星空色の目をしていた。
二匹はいつもじゃれあって見えた。それを客観的に見ていると微笑ましかった。

けどシロには変な癖があった。じゃれ始める時、シロはクロの至る所に牙をあてがいだす。強かったり弱かったり、大方知らない内にクロの身体には沢山の傷跡がつけられている。なのにシロはその傷を舐めて慰めていた。変だよな。シロは不器用なヤツだったんだろう。


喧騒とした世界から脱し、自然に囲まれ広々としている平穏な緑地。
二匹が静かにじゃれあってるあまりに、ひよりと鳥が囀った。少年はふと様子を見た。気付いたらクロは突っ伏していた。

『どうしたの?』

少年は慌てて駆け寄った。まただ。
血の滞った冷たいシロを『ダメだろ、大事にしなきゃ』と叱る。
シロとクロは少年の影に覆われて、代わりに太陽がなくなっていた。佇む優しい影にクロは自ら飲み込まれたみたいだった。
何故なら少年からただよう石鹸の香りだけが唯一、クロに優しかったからだ。
だから歩き出す少年を追いかけようと、シロは駆け出した。けど、少年は右手に紐の伸びた輪を持っていてそれを木に巻きつけていたから首元が痛むだけだった。
クロは悲しそうに後ろ姿を眺めていた。

少年はクロを誰の目に届かない遠いところに隠した。
とてもキレイだったから。誰にも傷つけられないように・・・。だけどひょいとやってきたシロがクロを執拗にいじめたがる。多分、オレの匂いがつくのが嫌でクロを取られたくないんだ。シロは反抗的で愚直な性格だから止めようとするのは難しい。近付くとオレまで噛みつかれてしまう。おっかないな。


ある時、ゴンが一緒にどこか行こうと言ってオレを連れ出した。二人が入ったのは森の奥。突然ゴンが鼻を嗅ぐつかせて西の奥へと走り出し、オレは焦って追いかけた。

『この匂い、そっくりだ・・・』

水溜りを覗いていたら、突然もうひとり映ったので少女がびっくりした。
移香に誘われやってきたゴンの笑顔は、まるで花が咲いたかのようである。
ぎこちなくであるが少女は微笑み返した。

『キミ、1人なの?』

『・・・・・』


少女はどうにか答えようとしていたがどれもこれも言葉では無く、まるで赤子の喃語ばかりであった。
ゴンはよもや、少女を常人とは思っておらず不思議なものを見るようだった。
なにより身体の至る所に痣があるのは、もっと不思議だった。

『ねぇ、その痣どうしたの?』

その時、後ろからキルアが現れた。それを見るやいなや、少女は迷うことなく四つん這い歩きでキルアの足元に寄り添った。
ゴンは、『なんだか懐いてるみたいだね』と、不思議そうな顔をした。
キルアは『なんだおまえ』と冷たく振り払った。

先にゴンは別れをつげた。
去って行く少年の姿が見えなくなるまで少女は恋しそうに見つめいた。
それから付近にあった葉っぱを少年に見立てて微笑んでいる。
キルアはそれを見ると物珍しそうに『ふーん』と一言残してゴンの後を追っていった。


夜。クロの元へ行くと、オレは土を掘っていた。
草むらからひょいとシロが現れたせいでこうなったが、その時オレはここにいなかった。来た頃には何もかも終わった状態だった。
きっとシロは歩み寄ったクロを地面にふっとばした。
それからシロは御構い無しに2、3回繰り返したみたいで、客観的に見てもその光景はじゃれあいとは程遠かったろう。
シロは何とも険しい威嚇の顔をもって、まるで馬乗りにも、首を締めている仕草にも見えたろう。
クロは力なく倒れており、目元から星屑がぽろぽろと落ちていった。

そこに一足遅れてオレがやってきた。
『やめろよ!なにやってるんだよ!』
クロを襲っていたシロを引き離し、オレは酷く汗を垂らし 我を忘れて抱きしめた。

『ごめんな、ごめんな』

少年は切ない顔をして何度も言う。
クロはボロボロで視線をあてることは堪えられなかった。

『でも』

・・・お前がいけないんだ

すでに冷たくなってしまったクロの手の平には緑の葉。まるで握りこぶしをしているように離さないでいる。

それから掘った。
クロは『普通』より小さい
だからオレがギリギリ入れるぐらいまで の土を掘った。
クロは闇に飲み込まれていくようだった。
いつからか爪先に食い込んでいた 。ああ、我を思い出した。
そこから漂う、血の匂いに。

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