第07話〈扮装〉
「・・・・・」
「次妙な動きを取ったらお前のナイフがお前を貫く。いいな?」
・・・コクリ。
手のひらで繋がれ、無理矢理に連れ戻された。
どこか違和を覚えたのは、手元を見たとき。
どうしても、みとめられなかった。
行為と目的とが全く反対の要素を持って撞着していたからだろう。
ここから先へは行きたくなかった。
一歩を踏み出すことも、意に反している。
けれどもう、私の意とするものを聞き入れる余地は存在していなかった。
搭乗まで残り30分。
男はせわしく視線を変えていた。
客を除いて、勤務中の人間から壁や上の隅までくまなく見渡している。
その姿はとても自然的とは言えなかった。
間も無くしてサテライトの方へと連れて行かれた。
窓際から景色を眺めるように指示され、言われるがままにした。
「それで覚えたか?」
「うん」
「今からお前と俺との関係は名目上恋人だ」
「恋人のふりをすればいいってこと?」
「そう」
「じゃあ、あなたの事は何て呼べば良いの?」
「ダンテ・リヴォルノ。一応歳は23、ヨルビアン出身。そちらさんは?」
「ツキヨミ・レイコ、22、ジャポン出身」
男は腹の前で二枚の写真を凝視する。
次にスリムパンツのポケットから、薄いハンカチを取り出した。
「じっとして」
そう言うと、少女の顔面をハンカチで覆う。
男は真顔でそれを抑えた。
・・・・グニョグニョ。グニョグニョ。
何やら触感が変わっているように思えた。
「こんなもんだな」
「顔がなんだか熱い」
「この写真を」
男は同じ仕草で、ハンカチで顔を覆う。
すると。
・・・・グニョグニョ。グニョグニョ。
みるみるとハンカチが形を変えた。
「え・・・?」
少女は可笑しくなった。
まずハンカチが消えたこと。
次に写真と瓜二つの人物がいつの間にか浮かんだことに。
「どうだ?」
その声は先程の男のものだった。
「あ・・・・えっと・・・・」
窓に目をそらすと、向かいの影がかった暗色のビルにより自身の姿が映されていた。
初めは自分だとは認識していなかった。
しかしよくよく見ていると、服装も同じ。
左手をあげると、それも上げるのだ。
・・・一体どういうことか?
レイコは戸惑った。
「どうなってるの?」
「オレとお前は今、実在する人物に扮装している」
「どうやってやったの?」
レイコは写真を返した。
「この世界には知られていない力」
ついてくるように促され、レイコは歩いた。
その先で、人の列とゲートのようなモノに潜っていくのが見える。
保安検査機。所謂、危険物探知機だ。
二人は列の最後尾につく。
「パスポートあるよな?」
「え?」
・・・・・・
・・・・・・
至る所を探るとスタジャンのポケットからはパスポートが出てきた。
ふと思った。
なかったらどうなったのだろう。
列に並んでいる時間はかなり長かった。
段々近づいてくると、通過と同時にゲートの上部が赤点灯した後に、指摘されている男が何人かいた。
どうでもいいが、時計は何かの理由があってダメらしい。
やがて、ダンテとレイコも通過した。
そのまま、ダンテは搭乗券に書かれた番号を確かめ、搭乗口へと向かう。
天井から吊るされた時刻掲示板を仰ぎ見た後。
ダンテの手首から腕時計が見えた。
レイコは疑問した。
ダンテは何故腕時計をつけているのか?
ゲートを通過した時、探知機は何の反応もしなかった。
確かに目の前で見ていたのに。
あれは何かの勘違いだったのだろうか。
今更確かめる理由もなかった。
10:17。アナウンスが流れた。
改札機に並んで、パスポートと搭乗券を手渡した。
PC画面を見て、何かを照らし合わせている従業員の目は、緊張感をもたらした。
この改札機の中央で、人に挟まれながら“右にも左にも逃げ道”がないのだと思った。
「はい、どうぞ。」
ついに改札機を抜けた。
抜けてしまったというべきだろうか。
後ろ歩きをしていると、その境目が徐々に小さくなっていく。
少女は自分に言い聞かせた。
“もう、戻れない” と。
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