幕引きは近い




─────…。


期末試験終了後。

「悪かったな、呼び出して…助かった」
「いえいえ、信頼する先輩の頼みとあっちゃあ来ないわけにもいかんでしょ…おかげで可愛い女の子とマンツーマンできましたし俺としては大歓迎」
「…おまえそんなじゃなかっただろ」
「表向きはこれで通しますよ、敵を欺くならまず味方からってね、仕事はちゃんとしてるんで見逃してくださいよ……それと気をつけてくださいね先輩」
「?」
「あの子…今はまだ大丈夫そうに見えますけど、十分な危険分子だ」
「………」
「今回の試験で受け入れる力を付けた…今後はもっと強くなるでしょう、でも敵にまわれば相当な脅威になる……あんたはもしあの子がヴィランになった場合の事も考えておくべきだ」

そんなこと、言われずとも最初はなから決めていた事だ。


───
──────…。







「……まァ…プロだもんな」

上の柵に捕縛武器を絡ませ登ることで炎を避けそのまま降りるついでに相手に攻撃と拘束をし、身動きを取れないように組み敷いた。

「目的・人数・配置を言え」
「何で?」
「こうなるからだよ」
「──っ!!」

ゴキッという音と共に左腕を折り、右腕を取る。

「次は右腕だ合理的にいこう、足まで掛かると護送が面倒だ」
「焦ってんのかよ?イレイザー」

"個性"を出そうとしたので"個性"を消しつつ右腕を折った…その時遠くで爆発音が聞こえてきた…何だ……?

「先生!!!」
「!」

戻ってきた少人数の生徒に気を取られた一瞬の隙で、ヴィランが立ち上がるのを許してしまった…しかし拘束は解けてない…まだまだこちらの有利。

「さすがに雄英の教師を務めるだけはあるよ、なあヒーロー」

捕縛武器を引っ張ればずるりと崩れるヴィランの身体に驚愕する。
さっきの発火が"個性"じゃないのか!?

「生徒が大事か?守りきれるといいな……また会おうぜ」
「先生今のは…!!」
「……中入っとけ、すぐ戻る」

おそらくさっきのヴィランは別の"個性"で作られた偽物だったのだろう、だとすれば随分と面倒な"個性"持ちが敵にいることになる。

「っ先生!!実は怒木くんが!!」

マンダレイの元に向かおうとすると飯田が焦った表情で呼び止めてきて、日詠の名前が出た瞬間何か嫌な予感がして冷汗が伝う…同時に脳内に以前見た今にも泣きそうな、迷子のような顔をした日詠の顔が浮かぶ。

「敵の"個性"かは分かりませんが…怒木くんが突然姿を消しました…!!」

その言葉に自分の顔が歪むのが分かった…。
飯田は不甲斐ないとばかりに自分を責めているが落ち着かせ中に入らせて…それから胸騒ぎを落ち着かせて走った、無事でいてくれ…!!







目を開けるとさっきまで走っていた場所とは違う場所に私は立っていた。
あたりを見渡しても木ばかり…一緒に施設へ向かっていた他のクラスメイト達はいない…何があったんだっけ…施設へ向かって走っていたのは確かだ、その最中……そう、突然私の足元に黒い穴ができて、叫ぶ間もなくその穴に飲み込まれた…おそらく、敵の"個性"…。

「お目覚めの気分はどうだい」

突然かけられた声に反応して振り向くけど誰も居ない…近くにあった木の上を見上げると枝に人が座ってこちらを見ていた…暗いのに、いやにその瞳が輝いて見えてゾワリとした…ついでに頭がズキズキと痛くなっる。

「…っ」
「ああ、そうだ…自己紹介がまだだったね、ボクはキミの事を知ってるけどキミはボクの事を知らない…というか覚えていないだろうしね」

ガサリと木を揺らして木からそのまま落ちるように降りてふわりと地面に足をつけて笑う…同い年くらいの子…フードをかぶってはいるけど顔は見える…しかし知らない子だ、…けど…覚えていない、と目の前の子は言う……その声はどこかで聞いた事がある、ズキズキと頭の痛みが激しくなってきた…。

「ボクにとっては久しぶりと言いたいけれど、はじめましてと挨拶をしておこうか…はじめまして、怒木日詠チャン…ボクの名前は本当は無いんだけどそれだと困るからヨミって名乗ってる、キミも気軽にそう呼んでくれるとうれしいな」
「……あなた達の目的は何…何処に、何人いるの……」
「あっはは…すごいな、ほんとうにヒーローに"染められて"いるね…憎らしいよ、キミをそんなに穢したヒーロー共が」
「……なんの話をしているの……」
「教えて欲しい?」

笑いかけてくる相手に鳥肌が立つ…だめだ、会話ができない…マンダレイさんに戦闘はするなと言われている上に相手の力量が分からない、ここは逃げるべきだろう…しかし笑ってふざけているように見えて全く隙がない…"個性"をいつでも出せるようにはしておこう、自己防衛くらいなら許される筈だ。

『A組B組総員──…戦闘を許可する!』
「!」

頭に響くマンダレイさんの声…戦闘を許可…マンダレイさんは戦闘はするなと言っていた、つまりこれは別の…恐らくは消太くんの指示…この場合の戦闘許可は身を守れという事か…何にせよ、許可はおりた…相手の"個性"はよく分からないけど一対一ならまだ逃げ道はあるはず、まずは隙を見つけなくてはいけない…。

ヴィランの狙いの一つ判明──!!生徒の「かっちゃん」!!』

続けて送られてきたテレパスに目を見開く…かっちゃん、つまり…爆豪くんが狙われているという事か…呼び方からして緑谷くんからの情報、彼は大丈夫なのだろうか…。

「…爆豪くんが狙い、ですか……」
「あ、もう情報入ったんだ…そうだよ、バクゴーくんが狙い…他にはそう伝えてある」
「は…?」
「キミ自身もね、ボクらの目的の一つだ…他の奴じゃキミに対抗できないか、もしかしたら殺してしまうだろうから、キミの相手はボクだけが承った…できるだけ傷を付けずにキミを死柄木弔くんのもとへ連れて行くのがボクの仕事、ボクの目的、キミの運命……少し話をしようか」
「私はあなたと話す気はありません」
「まァそう言わないで、きっとキミも興味が出る話さ」
「っ!?」

ぐしゃりと体の力が抜けて地面に倒れる…立ち上がろうにも力が抜けて、手も握れない…紛れも無いピンチにドッドッと心臓が激しく動き汗が噴き出し始めるのが分かる…なんなんだ、敵の"個性"が全く分からない…!!
近付いてきて私の近くに腰を下ろして私を見るその顔は恍惚としている…といった表現が合うような表情をしていてゾッとした。

「キミは昔からヴィランに狙われやすかったらしいね?そして今も、少なからず狙われている」
「………」
「銀色の髪は目立つよね、そして"個性"も強く顔も良いときた…裏社会には専門の奴らもいるし売れば良い金になる…格好の餌でしかない」
「……何が言いたい」
「それだけ目立つ"目印"が多ければこっちも探す手間が省けるって事だよ、キミにその辺にいたチンピラヴィランを送っていたのはボクだ」
「!?」
「キミに当てはまる情報と連れてくれば高値で買うって噂を流してね…でも世の中上手い事いかないものだ、ボク自身がキミを見つけたのは雄英の体育祭が初めてだった…まさかと思ったよ、キミがよりにもよってヒーローを目指してるなんて…でも良いんだ、ヒーローの卵とは言えあいつらと対峙していたキミはとても綺麗だった…ねェ、ボクがどうしてこんなにもキミを探していたと思う?」

楽しそうに話をする相手に対して私は今酷い顔をしている気がする…この人の話を聞くだけで頭の痛みがどんどん激しくなる…。
はやく…はやくここから離れないと、逃げないと…まずい…!!
ズキズキといった小さかった痛みが、ガンガンとした強い痛みになっていく…まるでこれ以上は聞いてはいけないと警告するように。

「キミが忘れてしまった過去を、素性を教える為さ」

思い出してはいけない、思い出したくない…!!
思い出してしまえば私は"私"でなくなってしまいそうなんだ…!!お願いだからやめて…やめて…っ!!
手に力が入った…。

「キミは──…」

声が耳に届く前に、私は"個性"を使って全力でその場に雷を放出させた。
ああ……ああ……なんて黒い…私のキライな色……私のスキな色……。

《帰っておいで》

自分の身体が焼け焦げる音がした──…。
どうせなら──ユルサレナイとしても──今この場で死ねたのなら……。




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