咆哮は虚しく谺する




それは常闇が正気を取り戻してから、狙われていると分かっている爆豪を護衛しつつ施設へ向かおうとした時だった…少し離れた場所で雷が落ちたような音がしてその場に居た全員が音のした方を見た、丁度施設へ向かう最短ルート方面か。

「何だ…?」
「誰かがヴィランと交戦してるのかもしれないな…」
「緑谷、こっちには爆豪を護衛するという任がある…戦っているのが誰かは分からんがここは信じよう」
「…っ…そうだね…」

そうだ、ヴィランの目的の一つが爆豪である以上むやみやたらにヴィランがいると分かっている場へ向かうのは得策じゃない…最優先は爆豪を施設まで送る事だ。
歩き出そうとした時、小さな音を立てて何かが落ちた…足元を見れば日詠に貰ったストラップが落ちている…拾ってそれを見れば紐が切れただけ、ただそれだけなのに嫌な予感がして胸が締め付けられ汗が滲む…進行方向を見るついでにさっきの音がした方も見る…。
雷のような音だった…A組にも上鳴がいるがアイツは先に補修で施設に連れていかれている、ならB組の誰かかもしくは敵にもそんな"個性"持ちが居るのかって事になるが……知っている奴で唯一、日詠も体育祭で雷を出していたのを思いだす…。

「…っ緑谷…!日詠は他の奴と施設に向かったんだな…!?」
「え…う、うん…そのはずだけど…」

施設へ向かったんならきっと、大丈夫だ…大丈夫だと信じたい。
紐が切れてしまったストラップをポケットにしまって施設へ向かう為に移動を始める…あいつが無事な姿をできるなら早く見たい…。




大分移動して最初歩いた道まで戻ってくると麗日と蛙吹を見つけた…と同時に変な女が逃げて行った。

「何だ今の女…」
ヴィランよクレイジーよ」
「麗日さんケガを…!!」
「大丈夫全然歩けるし…っていうかデクくんの方が…!」
「立ち止まってる場合か、早く行こう」
「とりあえず無事でよかった…そうだ一緒に来て!僕ら今かっちゃんの護衛をしつつ施設に向かってるんだ」
「……………ん?」
「爆豪ちゃんを護衛?その爆豪ちゃんはどこにいるの?」

蛙吹の言葉に振り返ったがそこには誰もいない…目を見開いた、誰も油断していなかった筈だ…爆豪を中央にやって他の奴らで囲ってたんだぞ…!!

「彼なら俺のマジックで貰っちゃったよ」
「!!」
「こいつぁヒーロー側そちらにいるべき人材じゃねえ、もっと輝ける舞台へ俺たちが連れてくよ」
「──!?っ返せ!!」

奇妙な面を被ったシルクハットを被った男がいつの間にか木の上に立っていた。

「返せ?妙な話だぜ爆豪くんは誰のモノでもねえ、彼は彼自身のモノだぞ!!エゴイストめ!!」
「返せよ!!」
「どけ!」

木ごとそいつを氷結しようとしたがすばしっこく別の木に逃げられた…避けながらも奴は話を続ける。

「我々はただ凝り固まってしまった価値観に対し「それだけじゃないよ」と道を示したいだけだ、今の子らは価値観に道を選ばされている」
「………!爆豪だけじゃない…常闇もいないぞ!」

後ろ2人を音も無くさらったってのか、どういう"個性"だ…!!?

「わざわざ話しかけてくるたァ…舐めてんな」
「元々エンターテイナーでね、悪い癖さ…常闇くんはアドリブで貰っちゃったよ。ムーンフィッシュ…「歯刃しじん」の男な、アレでも死刑判決控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だ、それをああも一方的に蹂躙する暴力性…彼も良い・・・・と判断した!」
「この野郎!!貰うなよ!」
「緑谷落ち着け」
「麗日、こいつ頼む!」
「え、あ、うん!」

背負っていたB組の奴を麗日に任せてそのまま氷壁を出すが、それも難なくかわされた…なんなんだこいつ、全然攻撃があたらねェ…!!

「悪いね俺ァ逃げ足と欺くことだけが取り得でよ!ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか」
「おー、やってますねェみすたー」
「おや、そちらも仕事を終わらせたようだね」

突然降ってくるようにその場に現れた黒いフードを被ったやつがけらけらと笑いながら男に話している…あいつもヴィランか…!
いや…それよりも、そいつの近くに浮いてる玉みてぇなもんの中にいるのは──…!

「日詠!!?」
「怒木さん!?」

気絶してるのかピクリとも動かねぇ日詠の姿は所々黒く焦げていて痛々しかった…さっきの音は日詠だったのかと唇を噛んだ。
睨んでいる俺の事に気付いたのか、フードを被った奴はにんまりとした笑みを向けてきた。

開闢行動隊かいびゃくこうどうたい!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後5分以内に"回収地点"へ向かえ!」
「幕引き…だと」
「ダメだ…!!」

そこにいた二人がすぐにどこかへと移動を始めた…わけがわからねぇまま爆豪と常闇だけじゃねぇ、日詠も連れて行かれる。

「っさせねえ!!絶対逃がすな!!」

その場に居た全員が全力で走って追いかける…だが全然追いつかねぇ…!寧ろ距離は離れるばかりだ…!

「ちくしょう速え!あの仮面とフードの奴…!」
「飯田くんいれば…!」
「………!諦めちゃ…ダメだ…!っ…!追いついて…取り返さなきゃ!」
「しかしこのままでは離される一方だぞ」
「麗日さん!!僕らを浮かして、早く!」
「!」
「そして浮いた僕らを蛙吹さんの舌で思いっきり投げて!僕を投げられる程の力だ!すごいスピードで飛んで行ける!障子くんは腕で軌道を修正しつつ僕らをけん引して!麗日さんは見えてる範囲でいいから奴との距離を見はからって解除して!」
「成程人間弾か」
「待ってよデクくん、その怪我でまだ動くの…!?」

緑谷の案は良い案だとは思ったが、たしかに…こいつもう気を失っててもおかしくねえハズだぞ…。

「おまえは残ってろ、痛みでそれどころじゃあ…」
「痛みなんか今知らない、動けるよ…早くっ!!」
「──…!デクくんせめてこれ…!」

麗日が着ていたシャツを脱いで緑谷の腕に木の枝と一緒に縛って応急処置をすると、緑谷が言った通りに麗日が俺たちを浮かし、蛙吹の舌でまとめられ…そして投げられ少しも時間が経たないうちに追いついてそのまま二人を引っ掴んで地面に着地する…。
その場所には他のヴィランもいた。

「知ってるぜこのガキ共!誰だ!!」
Mr.ミスター…ヨミと一緒に避けろ」
「!了解ラジャ

そう言うとツギハギだらけの男が炎を出して攻撃して、それを避けたせいで思わず捕まえた仮面とフードの奴を放しちまった!

「死柄木の殺せリストにあった顔だ!そこの地味ボロくんとおまえ!なかったけどな!」
「チッ!!」
っつ!!」

いつの間にか後ろにいやがった意味わかんねぇ言語の男に向かって氷結を繰り出した…こんな奴を相手にしている暇はねぇってのに…!!
フードの奴の"個性"が解けたのか少し離れた所で倒れている日詠をなんとかヴィランの攻撃をかわして抱き寄せた…気は失っているが生きている事を確認してほっとした。

「いってて…とんで追ってくるとは!発想がトんでる」
「………」
「怒木は逃したか…爆豪は?」
「もちろん………!?」
「二人とも逃げるぞ!!今の行為・・・・でハッキリした…!"個性"はわからんがさっきおまえが散々見せびらかした──…右ポケットに入っていたこれ・・が常闇・爆豪だなエンターテイナー」

障子が小さな玉を持って仮面に話す。

「障子くん!!」
「──ホホウ!あの短時間でよく…!さすが6本腕!!まさぐり上手め!」
「っしでかした!!」

そのまま逃げようとすると目の前に黒いモヤが広がる……こいつは襲撃の時の…!

「ワープの…」
「合図から5分経ちました、行きますよ荼毘だび
「ごめんね出久くんまたね」
「まて、まだ目標が…」
「ああ…アレはどうやら走り出す程嬉しかったみたいなんでプレゼントしよう。悪い癖だよ…マジックの基本でね、モノを見せびらかす時ってのは…………見せたくないモノトリックがある時だぜ?」
「ぬっ!!?」

障子が持っていた玉が氷に変わった!!爆豪も常闇もまだ奴の元にあることになる…自然と焦りが生じる。

「氷結攻撃の際に「ダミー」を用意・・し右ポケットに入れておいた…右手に持ってたモンが右ポケットに入ってんの発見したらそりゃー嬉しくて走り出すさ」
「くっそ!!!」
「キミもさァ、そろそろ返して・・・よ…ボクだけ仕事できない子みたいなの、すごくイヤだ」
「!?」

俺が抱き抱えていた日詠が忽然と消えてフードの奴に抱えられていた…仮面の奴の"個性"はなんとなくだがどういったものなのかは分かった…だがあいつの"個性"はなんだ!?ワープだけならさっきの玉の説明がつかねぇ…!!
そうこうしているうちにそいつは日詠を抱えたままモヤの中へ入っていく。

「じゃあね、ヒーローの卵ども…この子は返してもらうよ」
「…っ待て!!!」
「そんじゃーお後がよろしいようで…」

仮面の奴もモヤん中入って去ろうとした瞬間、どこからかレーザーが飛び出してきてそれが仮面の顔面を直撃し、そいつの口の中に入っていた玉が出されて走って飛び出し手を伸ばした…だがすんでのところで一つはツギハギの奴に取られた。

「哀しいなあ…轟 焦凍」
「確認だ"解除"しろ」
「っだよ今のレーザー…俺のショウが台無しだ!」

パチンと仮面の奴の指が鳴ると障子が取った玉が常闇に変わり、ツギハギの奴に取られた玉が爆豪に変わったのが転んだ時に見えた…。

「問題 なし」
「かっちゃん!!」
「来んな、デク」

それだけ飛び出した緑谷に爆豪は言って消えた──…。
その場には緑谷の咆哮だけが虚しく響いていた…俺は……俺も…叫びそうな自分を抑えて唖然とその場に立ち尽くしていた…。

「…っくそ…!!」

守れなかった事が悔しくて、静かに手を強く握り締めた…。



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