ー…ォォォォン

どこからか聞こえてくる遠吠えに俺の脳は覚醒しだした。
部屋を見れば、朝日が昇ってきているのだろう、ぼんやりと明るくなってきていた。それをボーと見た後はっと気づく。安室さんは"朝日が昇り、狼の遠吠えが聞こえたら開けてきていいよ"と。
俺は急いで障子を開ける。
そこには一匹の白い犬…否犬よりも体が大きい。恐らくこれが安室さんの言っていた狼なのだろう。
狼は白い尾をユラっと揺らめかせこちらをその体毛とは反対の黒い瞳で見てくる。
バタバタと廊下を走る音がすれば、息を切らして安室さんと奥村さん、勝呂さん、蘭がやってくる。

「コナン君!!よかった!!」
「ちょ、蘭姉ちゃん!?」

涙目の蘭が俺に抱き付き、それを離そうとしたが、蘭の身体が震えていた為、おとなしく抱きしめられていた。
勝呂さんは頭をポンと撫でてくれた。

「坊主、こわかったろ?」
「…コナン君、言いつけ守ってくれてありがとう」
「う、うん!!」

奥村さんがそう言った時、ギクッと身体を震わせてしまったが、そこは母親譲りの演技力で乗り切った。
安室さんは?と視線を探せば彼は白銀に輝く髪を持つ女性を抱きしめていた。彼女も奥村さんたちのような黒のコートに身を包んでいた。さっきまであんな人いなかったのに…。

「真神さん!!そろそろ行きましょう!!」

奥村さんがそう声をかければ、彼女は安室さんの背中をポンポンと叩く。そうすれば彼はしぶしぶながらその腕からその女性を離す。女性はこちらを漆黒の瞳で見てくる。それは先程の狼を思いださせる容姿をしていた。

「せや、コナン君、毛利さん、彼女が俺達の上司、真神燈さんや」
「真神と言います、れ…透くんとは幼馴染なの…さ、コナン君だっけ?」
「うん…江戸川コナンだよ」

真神さんは俺のことをジッと見て困ったように眉を下げ、蘭を見る。

「…話はもう聞いていますね。お父さんに急いで、と」
「…はい、父を呼んできます」

蘭はそう言って駆けていく。その時目じりに涙が浮かんでいることに俺は疑問を持った。いくら俺が危ない目に合ったからと言って涙が出るほどまで不安だったのか?だが、その涙の理由はおっちゃんが来てからすぐに分かったことだった。

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玄関のある庭には大きなワゴン車が一台停まっていた。そこから奥村さんたちと同じようなコートを着た男の人たちが出てきた。

「コナンくんはあのワゴン車に…奥村、勝呂頼んだわよ」
「「はい」」

俺を左右から挟むように奥村さんと勝呂さんが乗り込む。後ろの席には一人頭を坊主にした男の人がいた。

「子猫丸か」
「坊(ボン)この子が?」
「あぁ、江戸川コナンっちゅう子や」
「こんにちは、僕は三輪子猫丸いいます」
「よろしく、三輪さん」

三人は運転席に座っている同じ団員の人たちと会話をしていた。結構専門用語が飛び交う為、俺には理解しがたいものではあった。何気なく、外を見れば蘭とおっちゃんの姿が家から出てきた。
おっちゃんは何か箱のようなものを両手で持ち、蘭は気落ちしているおっちゃんの肩を支えていた。
すぐに俺達の乗ってきた車に安室さん三人で乗り込んだ。
一瞬しか見えなかったが、おっちゃんが持っているあれはー…

「オォォオオオン!!!!」

突如空に響いた狼の遠吠えに一気に俺の前後左右の人たちに警戒の色が見える。

「出してください!!!八尺様が来ます!!!」

奥村さんの言葉により、車は一気に加速する。俺は頭から毛布を被せられなるべく姿が見えないようにされた。
車はどんどんスピードを上げ、急なカーブも対向車車線に飛び出てでも走っていく。対向車いないからできるよな…。
もうすぐ村の出口が見えてくる時だった。
いきなり車が何かにつかまれたように急停車した!!シートベルトつけてなかったら今頃フロントガラスに頭をぶつけている…。
なんだ?と横の扉を見ればそこには…

ーぽ…

黒髪で白い帽子をかぶり、その顔は目のあるところと口のあるところは黒いくぼみとなっていた。俺がそれを見た瞬間口と目であろう黒いところが細くなる。

「まずい詠唱を!!」
「「「アマテラス大神に畏み、畏み申す!!」」」

奥村さん、勝呂さん、三輪さんが一斉に詠唱を開始する。
詠唱を開始しした瞬間八尺様は何かに飛びつかれ車から離れる。車がドンっと地面についた瞬間一気にアクセルを踏まれ、車は急発進した。
後ろを見れば白い狼が八尺様の喉仏に食らいついているところだった。
そのあと村の入口が見え、何事もなく車は村から出ることに成功した。