あれから俺達は無事に米花町へと帰り着いた。
あの時やはりおっちゃんが持っていたのは遺骨の入った箱だった。
蘭たちのひいおばあさんはすでに半年前に亡くなっていたそうだ。…では俺達が見たのは?それは奥村さん、勝呂さん曰く怨念に近いものだったらしい。
村に唯一残っていた僧がそれを看取り、供養したそうだが、ひいおばあさんはきっと己の孫を死に追いやった八尺様が許すことができなかったのだろう。
にわかに信じられないことだが、実際小五郎のおっちゃんの親はひいばぁさんが亡くなった報せを聞いていたそうだ。現在も海外にでており、おっちゃんには八尺様によって殺された従兄弟の件もあってか知らせてなかったという。僧は村人のいなくなった村に残る必要もなくなり、せめて遺族が取りに来た時分かりやすいようにと、仏壇の裏に置いていたそうだ。そして遺骨の入った箱は仏壇の裏に隠されていたそうだ。だが僧も年が年だった為か数か月後に無くなったそうだ。

「恐らくおばあ様は村にいる八尺様に一矢報いたかったのかもしれませんね」

奥村さん…否今回は家が仏家である勝呂さんと三輪さんの知り合いの寺に遺骨は入った。

八尺様に関しては村の言い伝えとしてしか残っておらず、それがいつの時代から語られてきたのか分からないという。だが、あれらは人がその存在を信じ、畏れることによって力をつけていくという。これらのことを、霊やお化け、化け物とは呼ばずに怪異とうらしい。
今やネット社会。掲示板にそれを書けば瞬く間に数千人がその存在をしり、畏れる。それにより最近怪異の力が強まっているという。
最後にそう説明して奥村さんたちは引き上げていった。
いつの間にか真神さんがいなくなっていたけど、奥村さんたちが「あ〜結構自由で忙しい人ですから」と苦笑交じりに言えば、安室さんも乾いた笑みを浮かべていた。
そして俺は今日ー…

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「あ、安室さん、階段、きつい」
「え?そう?ほら頑張って」

安室さんにあの時の狼にお礼が言いたいといえば、車に乗せられ大きな赤い鳥居のある神社へと連れていかれた。本来は山のふもとにある神殿でもいいらしいが、せっかくだからと本殿に上るためにある長い階段を上ることになった。
本殿は山の頂上付近にあるらしく、後ろを見れば建物にさえぎられることなく、太平洋と町が見渡せた。
そしてしばらくしてようやく本殿への鳥居をくぐる。だが安室さんは鳥居柱すれすれを通った。
理由を聞けば、鳥居の中央は神様が通る道だから人は通らないモノだという。

そして着いた本殿には下にある神殿に負けず劣らずの立派な神殿が立っていた。真紅の柱が立ち、様々なところに動物の壁画が描かれている。
本殿にある手水舎には蛇の石像が置かれ、そこで身を清めれば、神前の元へ向かう。そして賽銭を入れ、鈴を鳴らす。
俺は先日の礼をここでする。
あの時あの狼がいなかったら…もし安室さんが一緒に行かなかったら…それを考えるだけで寒気がする。

安室さんが拍手をすればあたりに響きわたり、先程まで鳴いていた蝉や鳥たちのさえずりすら聞こえなくなる。
参拝を終え帰路につくときふと疑問に思ったことを尋ねる。

「そう言えば、ここは何の神様を祀っているの?狼っていうのは分かっているんだけど…」
「あれ?言ってなかったけ?」
「うん、本殿の中にたくさんの動物の石像があったけど…なんの神様なの?」

そう本殿の中には左右に沢山の動物の神様が祀られていた。だが本来中央にある置かれている石像はなく、何を祀っているのか分からなかったのだ。
でも狼を祀っているのは確かだが何の狼の神様なのか分からないのだ。

「それはねー…」

突如海から吹く疾風にあたりにある木々が揺れ動く。

「アマテラス大神様…太陽神だよ」