「次は右やっ」

メロンボールの指示により、コトリバコを持った女性を追う。しかし、あの時の黒い炎は一体何なんなんだ?
安室さんも気になるようで、チラチラとメロンボールの方を見ている。

「あそこやっ!!」

メロンボールが指さす所には確かに先程の女性がタクシーを降りているところだった。女性の行先はあのマンションだろう。あそこに入られたら、もう追う術はない。

「あかん…コトリバコの力が…」

女性はタクシーを降りるとお腹を押さえて歩き出す。メロンボールは車が完全に止まる前に降り、女性のもとに走る。その際、ポケットから錫杖のようなものを取り出し、繋げ合わせていく。

「くそっ!!」

俺と安室さんも急いで車を降りる。既にメロンボールは女性に接触していた。

「お願いします、お姉さん…それを俺に渡してください」
「い、嫌よ!!これは私のモノよっ!!ごほっ!!」
「くそ、オンー」

女性は口を押えると咳をする。息遣いも荒くなっている上に額からは汗が尋常じゃない程出ている。俺は急いで携帯を取り出し、救急車を手配するようにする。メロンボールは何やら呪文を唱えている。安室さんは女性の肩に手を置き、優しく語り掛ける。

「それをこちらに渡せば、その腹の痛みから解放されます…その痛みが無くなればわかるはずです」

甘いマスクの安室さんにそう語りかけられれば、大体の女性はその指示に従う。案の定女性は鞄からしぶしぶきらめく匣を取り出し、それを安室さんに、安室さんは呪文を唱えているメロンボールに渡す。

「ありがとうございます」

女性はその言葉を聞くと気を失ったようでカクンっと倒れこむ。勿論安室さんが瞬時に抱きとめる。
そのあと救急車がすぐに到着し、女性は病院へと運ばれていった。

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「いやー、おおきに」

メロンボールは己の右手にある札の貼られたコトリバコを見て、俺らに礼をいう。

「…構いませんよ、しかしあなたは一体」
「…せやね、説明せなあかんよな〜、でも俺説明下手やねん…よし、どうせコナン君も坊に合っとるし…いっか」

そう言って安室さんにまたもや運転を頼み、俺達は都心から少し離れた所に向かっていく。しばらく車を走らせ、トンネルを抜ければそこは見たこともないような景色が広がっていた。

「すげ…」

建物同士が密着し、ぱっと見ごちゃとした印象を与える町だ。建物もカラフルなものやひと昔前には当たり前のようにあった駄菓子屋など昔の日本を感じさせるような建物も存在している。このような町は初めて来たから興味津々に町を見る。
しばらく車を走らせれば、とある建物の所で止まる。

「正十字學園?」
「せや!!」

メロンボールの案内で俺達は学内に入る。受付で手続きをしてからえれべエレベーターで最上階へ向かう。…エレベーターのある学校って…。長い廊下を歩き、一つの部屋に入れば「お疲れ様です」と声がかかる。

「おや?お客様ですね。初めまして、正十字學園理事長兼、正十字騎士団日本支部名誉騎士メフィスト・フェレスと申します。以後お見知りおきを」

男は全体的に白のピエロを思わせるような服を着、頭にあるボルサリーノの帽子を取ると礼をする。
ん?正十字騎士団?あれ?まさかここは…

「…お久しぶりです、メフィスト・フェレス卿」
「ん?おや、誰かと思いましたよ!!警察庁公安の降谷さんではありませんか!!」

安室さん(否ここでは降谷さんだな)が、彼に親しみを込めて握手する。どうやらフェレスト卿と降谷さんは知人のようだ。俺が不思議そうに見上げているのを気づいた降谷さんが苦笑交じりに訳を話してくれる。

「あぁ、警察庁公安の人間と警視庁の上層部は彼と食事に行ったりする仲なんだ…時々だけど互いの力を借りることがあるからね」
「そうです。私たちが戦った後の傷跡を隠蔽して下さったりしてもらっています」
「逆に悪魔に関する事件では彼らに手伝ってもらったりしているんですよ」
「そうなのです…そして君は八尺様に魅入られた江戸川コナン君ですね、報告は奥村先生から上がっていますよ」

へぇ…やはり前回俺を助けてくれた奥村さん、勝呂さんたちの所属する組織だったようだ。まさか学園の中にそんな組織があるなんて…って待てよ、ってことはメロンボールは…

「フェレスト卿、これ」
「あぁ…ありがとうございます」

メロンボールが札の張られたコトリバコを取り出し、彼に渡せば彼は電話を取り出しどこかに連絡をする。

「メロンボール貴方は…」
「あ、そうやったわ!!改めまして、黒の組織に潜入しております、正十字騎士団候補生兼正十字學園一年の志摩廉造いいます」
「「…学生」」

学生が潜入捜査ってマジ?

「それがマジなんだよね」
「わっ!!!」

突如耳元で聞こえた声に反応して後ろを振り返れば、あの時お世話になった真神燈さんがいた。燈さんは「ヤッホー」と手を振りながらソファーの上に座り、俺達も反対側に座るよう促す。メフィスト卿の方も話が終わったようだ。終わったと同時に奥村さんが書類を持ってやってくる。俺と降谷さんは軽くお辞儀をすれば、彼もお辞儀を返してくれた。

「さて、今回のコトリバコですが…やはりどの神社や寺からも無くなってはいないようです」

奥村さんの言葉に俺と降谷さん以外の人物が深いため息をこぼす。

「ってことは誰かが作り出したってことよね?」
「そうなりますね…」
「だぁぁぁあああ!!めんどくさいなぁ!!」
「ふむ…お!!いいことを思いつきましたよ!!彼らに頼みましょう」

そう言って四人の視線が俺達に向けられる。困惑する俺達に燈さんはのんきににっこりと笑って爆弾を投下してきた。

「あぁ、なら江戸川コナン君、貴方に依頼したいわ。このコトリバコを創り出した犯人を捕まえてきて?」
「えぇぇえええ!!!??僕っ!!??」

叫ぶ俺に燈さんは更に爆弾を落とす。しかも原子爆弾並の…。

「だってコナン君本来は工藤新一くんでしょ?このくらい朝飯前でしょ?」

なにかおかしいこと言ってる?といわんばかりに頭を傾げる彼女…それより俺は恐る恐る降谷さんを見る。そうすれば彼は苦笑交じりに「知ってたよ」という。

「江戸川コナンという人物の戸籍などのデータはないからね。君は工藤新一くんの遠い親戚だと言っていたからね。そこから探しても江戸川コナンはいない。いろいろと調べば簡単なことだよ」

…そうだったこの人公安の人間だった…。
俺はガクッとうなだれつつもこちらを見ている四人に視線を向ける。

「…分かりました…でもまずコトリバコの詳しい説明ってしてもらえますか?」
「勿論ですよ!!…奥村先生っ!!」
「…結局僕ですか…まぁいいですが」

そう言って奥村さんは立ち上がる。

「では改めましてコトリバコについて説明いたします」

コトリバコ…それはとある集落で過酷な迫害に抵抗するために外部から持ち込まれた呪術をもとに製作された呪いの小箱。
水子の死体の一部を細工箱のような小箱の中に入れて封をし、置物などともっともらしい嘘をついて殺したい人物の身近に置かせる。但し、この呪いは数ある呪詛の中でもかなり強力なもので、その呪いは製作者本人でさえも制御できず、下手すれば己たちでさえ殺しかけないような危険なもの。女、子供を苦しませて殺すことから"コトリバコ(子取り箱)"という名がついた。
コトリバコの呪いは時間が経過しても衰えず、更に呪いの性質上解体ができない為(密封のため)、神社や寺などで長い年月をかけて少しずつ清めるしか方法はない(呪いを完全に消すことはできない)。
また何体かの水子の死体を使用するかによって呪いの強さが大きくなる。一から順に八段階の名前がある。どれも語尾に「ポウ」とつく(一ならイッポウ)が、八段階だけは「ハッカイ」と呼ばれ、とても危険なものである。

「以上がコトリバコの説明になります」
「恐らく今回無くなった方達には共通点があるはずや…それを調べていけば大本にたどり着けるか思います」
「犯人を見つければそれなりの報酬を与えましょう」
「もしもの時の為に…手助けとして、イナバ」

燈さんがそう言えば、志摩さんの影からあの時見た兎のような生き物が出てくる。

「彼の手助けを」
[慈母の仰せのままに]
「頼みましたよ、工藤新一くん」

こちらが断る暇もなく俺は、依頼を受けてしまった。
今年の夏は散々だ…。