とりあえず依頼を受けた俺は、まずは話を聞くため警視庁に向かった。安室さんに聞いても良かったが、警察一課が担当だということもあった為、高木刑事に聞くことにした。高木刑事は丁度休憩の時間だったらしく、すぐにでてきてくれた上にお昼を一緒にしてくれるとのことだった。

「それでコナン君が話ってなんだい?」
「うん、あの事件についてなんだけど…」
「あの?あぁ、あの女性たちのかい?」
「うん」

そう言えば高木刑事は何か考えるそぶりを見せる。

「あの女性たち本当に不思議だよね…」
「なにか女性たちに共通点とかない?」
「共通点…」

しばらく考えている様子だったが、高木刑事は何か思いだしたかのように手を叩く。

「そう言えば被害にあった女性たち同じ産婦人科で中絶手術をしているんだ」
「!!」

高木刑事から聞いた話だと、亡くなった彼女達は全員中絶手術を行っているらしい。そしてこの前の被害になりそうな女性もそこで中絶手術を行った女性だったそうだ。

「あと、同じキャバクラで働いていたことぐらいかな」
「…分かったありがとう」

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「…なるほど、それならばいっしょに行こう」

俺は話を聞いたあとすぐにポアロに行き、安室さんにその話をした。安室さんはすぐに俺と共にその病院へ向かってくれるとのこと。

「ここが…」

病院は個人営業をしているところで病院内には数人の女性が出入りした。ありがたいことに安室さんの部下である風見さんが同行してくれており、アポなども彼がしてくれていた。

「警察庁の風見です。今回はあの件についてのお話を聞かせてもらいます」
「はい…」

都内のはずれにある小さな個人営業の産婦人科で、医院長は男性で齢50程だ。その他にも看護師二人がここで働いている。ここは出産は勿論だが、妊娠中絶を行う女性も来るらしい。男性医院長だが、人が良く、その腕を信じてよく訪れる方はいるらしい。
勿論妊婦さんたちと看護師たちの仲も良好で、子供に対しても優しい医院長だった。とても人殺しを考えるような人ではなかった。

「医院長が犯人じゃないのかな…怪しいところもないようだし…」
「…そう、ですかね…」

俺が安室さんにそう声をかければ、安室さんは医院長をジッと見ながら手を顎に当て考えている。そんな時だった俺の影からイナバさん(何かさんをつけないといけない気がする)が出てくる。

[童、決断するのは早い]
「…そうですね、もう少し他の人に話を聞いてみましょう」
「う、うん」

そう言って安室さんは看護師の二人に話を聞きに行く。

「え?先生の?」
「あー…実は先生の奥様、5年前に先生とのお子さんを流産して亡くしていらっしゃるの」
「なんでもお腹に衝撃を受けたことが原因って…」
「子供のできないお体になってしまったって噂よ」
「それに奥様は耐えられなくなって…」

俺は安室さんを見る。安室さんも頷き返す。
すぐに安室さんは風見さんに連絡をし、この病院の監視カメラを二年分チェックするように話す。

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病院から帰って安室さんのセーフティハウスに行き、風見さんが集めてくれた監視カメラの映像を全てチェックしている。遅くまでする為、蘭には博士の家に止まる旨を連絡する。
映像を見返していればそこには信じられない光景が映っていた。
医院長は女性の腹から摘出した赤ん坊の一部を採取し、冷凍庫に入っているきらびやかな箱に入れていくではないか。

[こやつだな]
「えぇ、間違いありませんね」
「動機としては、妊娠中絶をする女性への恨みかな」
「でしょうね」
[人の感情とは時に厄介なものだな]

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後日燈さんと奥村さんとメロンボール…志摩さんと合流し、再度病院へ行き、今回の事件に関して話をする。
初めは"違う"の一点張りだったが、燈さんの「神の前でもそれを言えますか?」と優しく論する言葉に彼は涙をこぼしながらすべてを話してくれた。そして真相はもっと残酷であった。

ことの発端はやはり、腹の子が亡くなったことが原因だった。
なかなか子供に恵まれなかった二人にようやく授かった赤子。大事に大事に育ってていたのだ。
だがある日デパートのエスカレーターにのっていた時だった。同じキャバクラで働いていた被害者たちがバタバタとエスカレーターを降りて行ったそうだ。その時、たまたま奥さんの身体に当たり、奥さんはエスカレーターから転落。とっさに腹を庇ったモノの高さもあった上にエスカレーターの階段を転がるように転落した為、お腹の子は亡くなってしまったのだ。

「妻が倒れた時、あの女たちは見向きもすることなくデパートを出て行きました…そして」
「患者…しかも妊娠中絶をしにこの病院へと現れた、と」

安室さんのその言葉に彼はコクリと頷く。

「私はとても憎かった…私たちの子をっ、妻を死に追いやったっ、平気な顔をして"子供が邪魔"と言ってくるあの女たちがっ…」

ことの真相を知った俺達にもなんとも言えない沈黙が訪れる。
そんな時だった燈さんが医院長先生の手を握り、その顔を覗き込む。

「貴方に選択肢を与えます」
「燈さんっ!?」
「残りの年数をこの地獄のような日々で過ごすか、それとも今から本物の地獄に行って魂を洗い流し、新たな命として…また奥様やお子様に会うのか」

"どちらがよろしいですか?"そう微笑みながら聞くこの女の人は一体何者なのだろうか…。
だがそれよりも会話内容だ。

「燈さん待って!!医院長先生はこの国の法でっ」
「そうですね…あなた達が真相を暴いたことによって彼は残りの人生を刑務所にて過ごすでしょう…ですが、コトリバコは呪。呪であるからこそ今回の件は私たち祓魔師の管轄になります」
「…コナン君今回の件の扱いはどちらにしてもそうなってしまう。上は今回の件を祓魔師に回す」
「そんなっ!!」
「これは昔からそうなんだ…分かってくれ」
「あんな、こういったの存在が公のモノになってしまったらあかんのや」
「殺人道具として世に回ってしまったら人類は本当に滅亡してしまう…分かってくれないかい」
「…分かった」
「ありがとう」

コトリバコで殺人を犯した、この件については呪いの一種になるため、本来科学的に存在されない物として迷宮入りになるものだ。たとえ犯人にしっかりとした動機や道具などが見つかってもだ。
そういったものは全て警察は祓魔師に回し、彼らの判定に任せるのだ。
今回の件は犯人がコトリバコを使った時点で祓魔師の管轄になるのだ。そのため、彼らは工藤新一という探偵にその捜査を依頼した。依頼物である以上、工藤新一が犯人の待遇を決めていいものではない。

「選べるのですか?」
「はい、どちらにいたします?どちらにしても残りの人生を過ごしても貴方の行先は地獄です」
「…それは覚悟しておりました。何せ無垢な幼子の遺体を復讐の道具としたのです…」
「…ならばお覚悟は?」
「できております」

先生の言葉に燈は笑みを浮かべる。

「では、本日の午前2時…丑の刻までに身の周りを整えておきなさい」
「はい」
「地獄からの使者が貴方の魂をあの世へとお連れ致します」

死を宣告されたにも関わらず、先生の顔は何故か晴れやかであった。

「よろしかったのですか?また鬼神様から…」
「その時はその時です。それにあの先生ならばそういうと思って既に連絡をしています。イナバが」
「…また貴女様は…」
「まぁ。なんだかんだあのお方も真神さんと動物にはお優しいですからねぇ…」

そう言いながら歩きだした三人に俺達もついていく。
後ろにいる先生が気になって見てみれば、彼の傍に先程まではいなかった身長の高い黒い着物をきた男性が傍にいた。男性の着物にはオレンジ色の鮮やかな鬼灯が書かれてあった。

「コナン君、いくよ」
「あ、うん」

安室さんに呼ばれて返事をしたあと再度後ろを見ても先程の男性の姿はなかった。見間違いか…そう呟いて俺は安室さんのもとに向かった。

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後日、あの医院長先生が亡くなったという話をメフィストさんに呼ばれた時に聞いた。

「あの鬼神ならば彼をしっかりした地獄の法で裁いてくれるでしょう」
「そして、彼の被害者となった女性たちも…彼に任せておけば安心です」

そう言うのは燈さんだ。

「さて、犯人を見つけてくださりありがとうございます。お礼ですが何がよろしいでしょうか?」
「なんでもいいんですか?例えば、身体を戻すとか…」
「えぇ、勿論です、ただ貴方の身体を完全に戻すことはできません…それは呪いなどではなく、完全に科学のモノでありますからね…」

工藤はその言葉を聞いて残念そうに肩を落とした。

「落ち込むのは早いよ」
「え?」
「ですが一時的ならば時間を操作して戻すことは可能ですよ。時空間を司る私にかかればその位朝飯前ですよ」
「なら!!!」
「ですが使用できるのは一回までとします。あくまでこれは報酬ですから…使いたい時私に連絡してください」

そういってメフィストさんは俺にメモ用紙を渡してくれた。

「修学旅行とかあるでしょう、そう言ったイベントの時とか使ったらいいよ」

そのあと祓魔師の先生の車で俺はいつもの街に戻ってきた。
既に空は赤く染まり、黄昏時を迎えていた。空を見上げて今回の事件を振り返って溜息を吐き、毛利探偵事務所に戻ろうとした時だった。
鋭い視線を感じ振り返れば、そこにはあの時の黒い着物を着た男性が道路を挟んで反対側にいつの間にか立っていた。鋭い目つきの中央…額には一本の角があった。あぁ、あの人が燈さんが言っていた鬼神。その隣では医院長先生が頭を垂れ、礼をこちらにしているようだった。それに軽く礼をすれば先生は笑った。
そして車が通った瞬間には既にその男性と先生の姿はなかった。

本当に今年の夏は散々だ…でもどこかでこの日常を楽しんでいる自分がいたのだった。

<コトリバコ 終>