カタン、カタン…と揺れる電車内には最後尾の車両だからか俺と安室さん、赤井さんの姿しかなかった。
まぁ最終だしな…そう思って電車に揺られ外の景色を見るものの真っ暗で何も見えなかった。

『次は正十字學園前〜』

何個かの駅を過ぎれば、アナウンスで次が正十字學園前だと気づく。安室さんも沖矢さんとの会話を止めて入口の方を見る。
プシューと音を立てて開いた先には誰もおらず、レンガで積まれたホームが不気味な静けさが漂っていた。そのうち扉は閉まりまたカタン、カタンと音を立てて走りだす。
外を見ればなぜかここだけ別世界のような雰囲気が漂っている街並みが広がる。

「…不思議な街、ですね」

沖矢さんが静かにそういえば、俺達も無言で頷く。それほど正十字學園があるこの街はなんとも言えない不思議さを出しているのだ。
駅を何個か過ぎ、もうすぐ東都につくという時その異変は起こった。
カタン、カタンと電車の音を聞いていればふとおかしなことに気づく。いやもしかしたら気のせいかもしれない…でも一度浮かんだ違和感はそう簡単に捨てきれるものではなかった。

「…ねぇ、ここからこの駅ってこんなに長かった、っけ?」

俺の言葉に安室さんと沖矢さんは互いに顔を見合わせ、それぞれスマホを取り出した。時刻を見れば、もうすぐで0時。普通ならばもう東都に着くはずだ。

「坊やの言う通りだ…もう本来ならばついてもおかしくない時刻だ…」
「まさか、乗り間違えたとかないよね…」
「いやそれはないでしょう…くそ、電車なんて嫌な予感しかしないっ」

安室さんが悔しそうに前車両を睨みつけるように見ている。

「安室さん、何か知っている?」
「…電車で起こる怪異には二つあります」
「安室くん、何を言っているんだ?怪異なんて信じるのか?ありえないだろそんなこと」

いつの間にか沖矢昴のマスクを取った赤井さんはチョーカー型変声期の電源を切って、驚愕の顔でこちらを見ている。確かに俺も怪異と遭遇するまでは幽霊などの話をまともに相手にしてこなかった。
だが、今年の夏は二回も怪異に遭遇し、それを目の当たりにすれば否応にも受け入れなくてはならなくなってしまった。

「赤井さん、ひとまず落ち着いてください…ここは安室さんの指示に従った方が生き残れます」
「…生き残れる、といわれる程今、危険な状態なのか?」
「えぇ、少なくとも僕が知っている電車関連の怪異はかなり危険です。それこそ組織に本名のまま、情報を持って潜入しているぐらいね…」

安室さんのそのたとえに俺達はかなり危険なのだということが一瞬でわかってしまった。

「電車で起こる怪異には二つあります。可能性が一番低いのは…猿夢」

猿夢…夢の中での話だが、電車に乗った人が次々にアナウンス通りの死を迎えるというモノ。
電車は遊園地などにあるような乗り物で、運転席には猿がおり、猿がアナウンスを読むというモノ。「活け造り」や「抉り出し」等を言いながらそれに合わせて小人がそれを実行するというもの。

「現在俺達は意識もしっかりしているから…その可能性は低いと思う」
「…あと一つは?」
「きさらぎ駅だよ」

きさらぎ駅…それは実在しない架空の駅の名前である。だが2chでとある人が書き込みをするようになって一気に知られた駅の名前だ。
迷い込んだ人は過去何人かいるようだ。それは日本全国で起こっているという。
きさらぎ駅は漢字で書くと「鬼駅」となり、福岡県できさらぎ駅を通過した人によると、前の駅は「やみ駅」で後の駅は「かたす駅」と書かれていたそうだ。やみ駅は「黄泉駅」、かたす駅は「根之堅州國駅」ではないかといわれている。どちらもあの世の世界だ。

「下手すると死ぬ可能性と、年月が経って浦島太郎のような体験をする可能性があります…」
「これがきさらぎ駅行きだとすると…どうすればいいの?」
「残念ながら…この2つには明確な対処法は有りません」
「そんな…っ」

口裂け女等明確に対処法が知られている怪異はまだ楽だ。もしこれがきさらぎ駅だった場合どうすれば…
そう思ったときだった。今まで静かだった車内にアナウンスが流れる。

『え〜大変お待たせいたしました』

先程までは女性のアナウンスだったが、明らかに男性の声だった。安室さんと俺は警戒しつつアナウンスに耳を傾ける。
赤井さんもじっと耳をすませている。

『次は抉り出し〜抉り出しでございます』
「「「っ!!?」」」

最悪だ!!そう言った安室さんが前車両を見れば悲鳴が聞こえる。駅を通過した時に何人か車両に乗ったのだろう。助けに行こうとした俺を安室さんが止める。

「安室さんっ!!」
「無理だ!!これから逃げることはっ!!」
「夢で起こるのではないのか!?」
「知りませんよ、そんなこと!!!」

『あら〜綺麗に取れましたね、次は活き作り〜』

またもやアナウンスが聞こえると叫び声が響く。一人こちらの車両に逃げているようで足音が近づいてくる。

「た、助けてギャァアアアっ!!!」

こちらに繋がる扉を開けようとしたがその前に何かに腹を切られ扉には男性の腹から出てきた紅い血肉がべっとりとついた。
思わず、視線をそらしてしまった。
その人物がズルズルと倒れた時だった。
扉が開き、車両に小さな猿のおもちゃのような生き物達が真っ赤に濡れた包丁を持ってやってきた。猿たちは甲高い声で鳴きながらこちらに近づいてくる。

【キキキッ】
【キーキーキー】
『おやおや、待ってください。次は…おっとどうやらお客さん運がいいようですね〜』

そうアナウンスが流れて電車が停まれば、扉が開く。

『きさらぎ、きさらぎ駅です』

扉が開いた瞬間俺達は躊躇なく外に飛び出す。

『ふふ…お客さん本当に運がいい…出発します』

そうアナウンスが流れたのを最後に電車は行ってしまった。

「はぁ、はぁはぁ…た、助かった?」
「なん、だったんだあれは…」
「…あれが猿夢といわれる怪異、ですよ…」

俺達は息が整うと辺りを見渡す。
そこは電灯が一つだけ付いているとても静かな駅のホームだった。