「私、閻魔大王第一補佐官鬼灯と申します」
「鬼…」
「はい、鬼です」

鬼灯さんという鬼は赤井さんのつぶやきに律義に返して、破壊された軽トラの中から黒い金棒を取るとこちらに近づいてくる。
遠目からも思ったがこの人結構身長がある。
黒の鋭い三角眼をし、目元には赤い隈取がある。口はきゅっと結ばれており、時折口元から見えるのは鋭い牙だ。体格はすらっとしているがあの重たそうな金棒を軽々と持ち上げているのを見ると、相当筋肉がついていると見える…赤井さんより安室さん寄りの体型だろうな。

「さて、貴方達のことは彼女から話を聞いています」

鬼灯さんはそう言って俺達一人ずつの顔をジッと見る。

「ふむ、三人ともこちらの世界のモノは口にしていないようですね」
「助けてくださってありがとうございます…彼女から話を時折耳にします」
「貴方が…そうですか」

鬼灯はそう言ってくるっと反対に身体を向けると歩きだす。いきなりのことに戸惑えば「来ないのですか?」と一言。どうやら帰り方を教えてくれるようだ。

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しばらく歩いていれば街という街に着いた。どうやら先程の明かりはこの街の明かりのようだ。
現世とほとんど変わらない街並みに興味津々で見ていれば鬼灯さんがこちらを見ていた。

「えっと、なんですか?」
「…いえ(行動が猫のように見えたなど口が裂けても言えませんね)」

「…」
「安室さん?赤井さん?」

先程から黙ったままの二人を見れば、彼らは鋭い目線で家々を見ている。彼らの目線の先を見ればこちらを除く人影が。鬼灯さんもそれに気づいたのかこちらにチラッと視線をやる。

「あれらはなんだ?」
「…彼らは」

そう言って一度言葉を切り、鬼灯さんは歩みを止めこちらを見る。

「彼らは人を喰らったことがあるモノたちです」
「「「!!」」」

そういってから鬼灯さんは一度街を見て再度歩きだす。

「ここ"きさらぎ"は"鬼"と書きます。もともとは文字通り昔は鬼たちが住んでいた村です。
ですが何時の時からか人を喰らった亡者が現れました。彼らは人を喰らったことにより力をつけており、普通の鬼ですら手がつけられないモノでした」

再度家を見ればこちらをジッと見る眼が爛々と光っていた。

「鬼灯さんは平気なんですか?その、彼ら普通の人たちとは違うって…鬼である鬼灯さんも危険なのでは…?」
「えぇ、私は只の鬼ではなく鬼神ですから…彼ら等など束でかかってきても虫けr…赤子同然です」
「「(今虫けらって言った!!)」」
「(鬼神?)」

鬼灯さんはゴホンと一つ咳払いをすると再度説明をしてくれる。

「まぁ、そのようなモノ達を地獄に置けばたちまち亡者だけではなく鬼たちも餌食となり、より彼らの力を増す要因となります。そのため、鬼達をこの先の堅州に移動させ、この村を彼らに渡したのです…勿論彼らはここから出れないように多くの結界によりここに閉じ込めています」
「…閉じ込める理由が他にもあるのでは…?」

安室さんがそう言えば彼はチラッとこちらを見て再度口を開く。

「えぇ、彼らの叱咤は"人を喰らえない"です。本当はもっと多くの叱咤をすべきなのですが、何せ只の鬼より強い亡者です。人を喰らわせないことにより、力を少しずつそぎ落としてから地獄の阿鼻地獄へ落とします。あそこにはベテランの獄卒たちがいますので…ちょっとやそっちょではあの獄卒たちには敵わないでしょう」

阿鼻地獄…またの名を無間地獄という。
殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄語、邪見、犯持戒人、父母・聖者殺害を犯したものが落ちる。地獄の最下層に位置し、大きさはどの地獄よりも大きいという。最下層故この地獄に到達するには真っ逆さまの落下速度で2000年かかるという。そこに住まう獄卒は背丈が4由旬、64の眼を持ち、火を吐くという。そこでの叱咤はどの地獄よりも厳しく、他の地獄の叱咤が幸福だと思えるほどらしい。

「…このきさらぎ駅とは一体何なんだ?」
「赤井口の利き方には気をつけろっ!!」
「構いません(あの世で覚えておきなさい)」

「きさらぎ…というかまずはあの世の仕組みから話します。
貴方が住んでいるのは現世は貴方達が普段見ている世界です。大地の下には層があり、中心にはマグマの塊がある。それであってます。あの世とは現世を中心にした異空間です。異空間への扉は森だったり井戸だったり、トンネルだったりします。
大昔には森や洞窟からあの世へ迷い込む人々が多くいました。あの世にとって生きている者たちは恐怖の対象になる時があります。そのため人が入ってこれないよう門を神々は作りました」
「…それが地獄の門」
「地獄の門と言っても天国にもつながる門でもあります。EUのあの世の門番はケロベロスですが、こちらでは牛頭馬頭に任せています。門ができたことにより生きている者たちが迷い込むことが減りましたが、ゼロという訳ではありません」

鬼灯さんはそう説明しながら街を歩いていく。だんだんと家が無くなり、大きな木々が生えている場所に着いた。

「時に貴方達のように連れて来れられる人も中にはいるんですよね…」

そう言って森を見つめる鬼灯さんに俺達もつられて目の前に広がる森を見つめた。