森がある場所は街の光の影響もあり、薄暗く先が見えない。不安になり思わず赤井さんの服を掴めば、彼はフッと笑って頭を撫でてくる。

「チッ、あの野郎まだついていないのか…仕方ない。まぁ早い話この森をうまく抜ければ結界を超えることができますが…」

そう言って鬼灯さんは後ろを見て棍棒を高く振り上げる。俺達の後ろには先程の男が身体を引きずってやってきた。微かに聞き取れる言葉は「肉喰らう、力欲しい」だった。

「全く懲りない人ですね…少しお仕置きをしなければなりませんね」

そう言って鬼灯さんは男に向かって走り出した。
そこからは…うん、なんというか見てはいけない物を見てしまったような気分だった。あの安室さん、赤井さんですら口に手を当て顔を青ざめさせていた。一応軽く説明すれば…
まず棍棒で男の頭部を強打…その時点で既に顔面崩壊な上に頭皮がはがれ、頭蓋骨とそこからはピンク色の脳が見えていた。鬼灯さんはそれに躊躇なく手を突っ込み脳をまるでロープか何かのように引っ張りだす。男の身体は常に痙攣をしていたがそれが無くなると、男の耳元で「活きよ、活きよ」と呟く。すると男の身体はみるみるうちに先程と変わらない綺麗な姿になる。そして元に戻った瞬間棍棒を腹に当て、口から血が出ようが、肛門から赤黒い何かが出ようが関係ないといわんばかりに押さえ込む。
その間男はなんとも言えない叫び声を上げ、痙攣をしだし、痙攣が無くなればまた「活きよ」の言葉をかけ、また叱咤…否拷問が始まる。

「うわぁ…ついて最初に、見るのがアレかよ」
「「「!!?」」」

声のする方を見てみればそこには白い割烹着を着た鬼灯さんに似た男性が岩の上に座っていた。男の人は俺たちが見ていることに気づくと「やぁ」と手を上げながらこちらにあいさつをする。

「*好、僕の名前は白澤…神獣白澤だよ」

白澤…中国に伝わる人語を解し、万物に精通するとされる聖獣。その姿は一対の牛に似た角をいただき、下顎に山羊髭を蓄え、瞳が全て合わせて9眼あるとされている。吉兆の印とされている。
だが目の前に居る人は明らかに人だ。獣の姿をしていない。
男…白澤さんは面白そうにその切れ目の瞳を細めるとクスクスと笑う。

「ふふふ、君魂と器の大きさが釣り合ってないねぇ…それは何かの薬かな?まじないの類ではないでしょ?」

俺を指さして面白そうに笑う。何故そんなことが分かるのか…それは安室さんが答えてくれた。

「神獣白澤には合計で9つの瞳があるといわれています。その中でも特に額の瞳はとても重要な役割をしているそうだよ」
「ふふふ、正解、さすがあのごふぅうう!!!!」
「「「!!!??」」」

白澤さんが嬉しそうに人差し指を立てた瞬間だった。どこかで見覚えのある棍棒が彼の顔に入った。

「ったく白豚が…私が仕事をしている間に貴方はのんきにおしゃべりですか?ふざけているんですか?しかも人様に指を指すなど…はぁこれだから偶蹄類は…」
「ふざけているのはどっちだよっ!!!僕は只鬼の仕事をっ!いだだだだ!!」
「人を指さしてはいけないと先程も言いましたよね?」

指を指した白澤さんの指を思いっきり反対に逸らせる鬼灯さん…。てかあの人復活早くね?神獣だからか?
二人のやり取りを唖然と見ていれば、ようやく本題に入ることになった。

「これから先は私と…」
「僕で案内するよ〜」

そういう二人に頭を傾げる。危険なのは町中なのでは?その際は鬼灯さんがいれば大丈夫だったから…

「ここに居るモノ達は比較的人間の理性を取り戻したモノたちです」
「今から向かうのは現世側の結界がある場所」
「そこにはまだこちらに来て間もないカニバリズム共がいますからね」

そう言って二人はすたすたと歩きだす。慌てて追いつけば白澤さんは様々なことを教えてくれた。
安室さんも赤井さんも子供のように質問をしていく。

「成程…なんでもご存知なのですね」
「うん、だって僕この星が生まれて間もない頃からいるから」
「「「えっ?」」」
「ちなみにこの鬼神もまだ地獄ができる前からこっちにいるんだよ〜」
「私の場合は八岐大蛇さんが国を闊歩していた時代です」
「「「えっ!?」

まさかの言葉に開いた口が閉まらない。確かに鬼や神の時点で年齢は違うものだと思っていたがまさかそんな大昔から生きているとは…。

「もしかしたら前世の貴方達を地獄で見たかもしれませんね…まぁ書類を見れば明らかになるのですが」
「え?まさか記録しているんですかっ?」
「それは勿論。地獄といえど組織自体は貴方達の世界と変わりません。警察やアイドル、汽車や記者…」
「キャバクラもあるよ〜ごふっ!!」
「それは言わなくていいです。どうせ彼らは体験することはできませんから」

またも殴られた白澤さん。つか地獄もいろいろな設備があるんだな…。まぁそうだよな。鬼といっても鬼灯さんみたいな人型だし…娯楽もないとやっていけないよな。
そんなことを思っていれば森はどんどん薄暗くなり、あたりからうめき声が聞こえてくるようになった。鬼灯さんたちも警戒しているようで、先程までの明るい雰囲気はなくなった。

「地獄はとても広いですからね…はぐれないようにしてください」
「ここに居る奴らは人であれば何でも襲うから」
「…一つ質問いいですか?」

安室さんが右手を上げて質問があると主張すれば鬼灯さんは前を向いたまま頷く。

「どうぞ」
「…昔何人かこのきさらぎ駅に迷い込んだ方がいらっしゃいますが、彼らはここの住人の案内で現世の方にたどり着いたといいます。その中で海に出たと書き込みがありましたが…」
「確かに彼らはほぼ理性を取り戻した街の住人によって海辺に案内されました。その理由はこのもりより海岸に行った方が安全ではあるからです。海の方にはこういった狂った奴らはいませんからね」
「なら何故海ではなく森に行くのだ?」

それに答えてくれたのは白澤さんだった。

「簡単だよ〜、現世に出た時に時間のずれが生じてしまうんだ」
「「?」」
「基本黄泉の国とは日本という大地の下にあります。黄泉の国に行けるのは基本洞窟や森が一般的です。海辺からは基本いけません」
「真上に出るのと、斜めから出るのって時間的にどう?」

成程。本来の正規ルートは森から入って森から出ることだが、森には人食いたちがいる。鬼神や神獣は大丈夫だが、人やあの町にいる人たちにとっては危険なルート。まるでRPGのようだな。
顔を上げればまだまだ続く薄暗い森。

「さぁ皆ここからは離れないでね」