大体のゾンビたちがどうやら先程の一か所に集まっていたようで、俺たちが森を進む間一体も遭遇することなく森を抜けた。
森を抜けた先には巨大な門があり、その扉には目が七つついており全部がこちらをじろっと見てくる。

「牛頭〜、馬頭〜開けて〜」

白澤さんがそう言うと扉が大きな音を立てて開く。白澤さんに促されて俺達は先に門の中へと入る。
門の中はどこかの宮中のようなつくりで無数の柱がいたる所あり、その柱には先程の扉同様に目が付いていた。ここか地獄…あの世への道。安室さんも赤井さんも興味深そうにあたりを見渡していた。

「あらぁこの子達が?」
「あらあら可愛いわねぇ〜」
「「「!!!」」」

声のした方を見ればそこにはどことなく三蔵法師を連想させるような衣装をした牛と馬がいた。
この人(?)たちがきっと牛頭、馬頭なのだろう。…というかまんま牛と馬じゃん。

「あらあら本当人って小さくてかわいいわぁ」
「あら牛頭ったらこの前白澤様もかわいいって言ってたじゃない〜」

恋バナをしだした二人に白澤さんは苦笑しながら俺達の案内をしてくれた。というか恋バナするんだ…。

「ここは見ての通り地獄と天国、そして現世を繋ぐ通路だよ。いわば異世界同士をつなぐ通路のようなモノだね」
「私たちはここができてからずっと二人で門番をしているわ」
「主な仕事はここに侵入してきたモノ達の排除が仕事よ」
「ここに侵入してくるモノって?」

あの世に侵入してくるモノなどいるのだろうか?そう思って聞けばしばらく考えた後答えてくれた。

「そうねぇ…この前現世の漫画家が"妖怪の漫画書きたいから地獄みせてくれー"ってやってきたり」
「あったわねぇ、つい最近亡くなって、他の亡者は沈んだ顔をしているのに一人わくわくしながら地獄に行っていたわね〜"やっと地獄が見れる!!"って」
「おかしな人が入ってくるわね」

…まさかそれって…そう思ったが口に出さずに話を聞いていた。赤井さんは分かっていなかったが、安室さんは検討着いたようで苦笑している。まぁ有名だしね。
そんな感じで歩いていれば「あら」と二人が立ち止まる。

「ふふ、よかったわねお迎えよ」
「あの狼…」
「あ!!アマちゃ〜ん!!」

牛頭さん、馬頭さんが道を開ければ、大きな扉の前に白い一匹の狼が同じく白い犬と何か話していた。傍には猿と雉がいる。白澤さんが嬉しそうに声を上げれば狼は白い犬との話をやめこちらにゆったりと歩いてくる。
赤井さんが小さく言葉を漏らしたがそれは白澤さんの大きな声にかき消されてしまった。恐らく聞こえたのは俺と安室さんぐらいだろう。
白澤さんは嬉しそうに狼に抱き付いていた。

「ふふ、お迎えに来てくれたの?」
「白澤様!!慈母を話してあげてよ!!」
「い、犬がしゃべった…」
「もうシロちゃん、分かっているよ。あ、彼らはあの有名な桃太郎のお供たちだよ」
「わぁ本当に生きた人間だ!!こんにちは!!」

え…桃太郎って実在したんだ…ってことは他の物語の登場人物たちもいるの?
白澤さんが狼から手を離せば狼は真っ直ぐに安室さんの元に向かう。近くまでくれば安室さんが腰を落とす。

「迎え、来てくれたのか」
「オン」
「心配かけてすまない」

安室さんが狼を抱きしめればふわっとした風があたりを包む。そして狼が何かに気づいたようにひと際大きな声で吠える。そこには所々傷を作った鬼灯さんがいた。安室さんが手を離せば狼は真っ直ぐに鬼灯さんの元に行き、彼の足元を一周する。
桃太郎のお供たちも嬉しそうに彼の元に走っていく。牛頭さん、馬頭さんも彼の傍に行き一礼する。…鬼灯さんって本当に偉い方なんだと思った。

「鬼灯様だぁ!!」
「あちこち怪我してますね」
「大丈夫ですか?」
「えぇ、ただのかすり傷です。まったく、アレは本当に処理が大変ですよ」

そう鬼灯さんが言えば大神はキューンと小さく鳴く。心なしか耳が少し垂れて困った様子だ。

「さて貴女がここに来たということは、私たちの仕事はここまでで大丈夫ですね。お三方もケガもなく良かったです」
「お心遣いありがとうございます」
「いえいえ、彼女からの連絡が無ければ私たちも気づかなかったことです」

"彼女"?
安室さんが頭を下げれば、鬼灯さんは無表情で「いえいえ」と手を振る。なんかこの人って本当人間らしいな。

「さぁ私が現世の門の扉を開けるわ、馬頭お願いね」
「心得ているわ、結界の緩みがないかチェックしてくるわ」
「牛頭さん、馬頭さんよろしくお願いします」
「「任せてください」」

そう言った瞬間パカラパカラと蹄の音を立てて馬頭さんは駆けていってしまった。
あぁこの大きな鉄の門が現世への門だったようだ。門の扉には空と大地と海が描かれていた。

「ではお三方。今回は大変なことに巻き込まれましたね…詳しい話は私たちより専門知識を持つ人たちに話を聞いてください。あぁあとこのことは他言無用で…また地獄に行きたいという人たちが現れてはたまったものではありませんから…」
「気をつけて帰ってね、再見(ザイジィェン)」

俺と安室さんは再度お礼を二人に言い、赤井さんは一つ礼をして門を開けてくれた牛頭さんに礼をして狼と共に門を潜ろうとすれば…。

「あ、お三方」
「「「?」」」

鬼灯さんに呼び止められた為後ろを振り向く。彼は無表情のままその小さな口を開く。

「数十年後、地獄でお待ちしております」
「「「っ!!!」」」

その言葉に俺達三人にはゾッとした悪寒が走る。
そうだ、俺達は少なくとも数十年後には死を迎える。否もしかしたら本当にすぐかもしれない。俺より10は上の彼らは仕事上俺よりももっと早くこの世界に来るかもしれない。
いきなり突きつけられた生のあるものが迎える終点を…。

「僕もその時はしっかりおもてなしをするよ!!」

シロさんが尻尾をブンブン振りながら嬉しそうに話すが、それって確実に俺達地獄行きってこと?

「これこれ、まだ執行されると決まったわけではありませんよ」
「えーそーなの?」
「たとえ人を殺していようとその行いに本当に反省すれば刑は軽くなります」
「まぁ行いに気をつけてってことだね、僕は天国で会えることを祈っているよ」
「貴方達にとっての地獄は私たちにとっては日常です」
「君たちの日常はある意味修行かもね」

白澤さんの言葉はある意味的を得ている為苦笑をするしかない。

「さぁ、そろそろ時間ですよ。数十年後地獄の閻魔大王のもとでお会いいたしましょう」

その言葉を聞いた瞬間いきなり吹いた突風に俺達の身体は押された。