眩い光に目を閉じ、慣らすようにゆっくり目を開ければそこはどこかの駅だった。
赤井さんも安室さんもあたりを見渡していれば、駅にある時計は丁度3時を指していた。どうやら鬼灯さんたちが言っていた通り、時間は体感通りのようだ。
そこにコツコツと階段を降りる音が聞こえ、視線をやれば奥村雪男さんがいた。

「皆さん、無事帰ってきたようですね」

ホッと安堵したように笑みを浮かべた彼に吊られるように俺達の口からは息がこぼれる。

どうやら俺達が出たのは正十字學園前の駅のようだ。
奥村さんの案内により、俺達は正十字騎士団のメフィスト・フェレス卿の部屋に案内された。
そこにはフェレス卿は勿論、燈さんも一緒にいた。
そこでお茶と軽食をいただきながら話を聞く。

どうやら俺達が巻き込まれた電車は本来の時刻に走るはずのない幽霊電車(ファントムトレイン)の一種のようだ。
何故一種という表記にしたのかは以下の説明だからだ。
幽霊列車…本来は列車に憑依し、電車に乗った人の魂を奪い虚無界へ連れ去ってしまう悪魔だが、最近は異常に強まりだした怪異…夢猿に取り込まれてしまったモノがいるらしい。それが今回俺達が乗った幽霊列車という訳だ。
夢猿は幽霊列車のあの世(虚無界)へ行ける力を利用してあのきさらぎ駅に行けるようになり、運よく生き残った人をあの駅に降ろしているとのこと(ちなみに地獄にも列車はあるため、線路がつながっているらしい)。
夢猿は本来夢の中でしか力を持たなかったが、最近になり力をつけ、ついには現世(物質界)にまで影響を与えているらしい。

「夢猿の知能は人と同じです。そのためなかなか捕まえるのが困難でして…」
「日本にはあの世へつながれるトンネルがいくつもあります…そのトンネルを利用して夢猿はこの世とあの世を行き来しているのです」
「メフィストがしっかり幽霊列車を管理してないからいけないんだよ」
「ちょっ!!変な言いがかりはやめてくださいよ!!」
「だって幽霊列車は貴方の眷属でしょ!?」
「それなら貴女だって日本の怪異ぐらい管理してくださいよ!!」

ギャーギャーと言いあいをしだしたフェレス卿と燈さん。
ちょっとまて…

「フェレス卿は見た目で分かるけど…燈さんも悪魔?」
「「…あれ?言って(なかった)ませんでした?」」

その言葉に頷けばコホンと咳払いをする。

「まぁ私も彼女も特に隠しているわけではありませんので、改めまして物質界では正十字學園理事長にして正十字騎士団名誉騎士 メフィスト・フェレスで通っていますが、虚無界ではサマエル…時の王です。サタン様を除けば虚無界の2ですよ」
「私は正十字騎士団名誉騎士 真神燈。虚無界ではアマテラス大神、慈母と呼ばれてます」

そう言って彼女がその場でパチンと指を鳴らせば、あの白い狼がいた。
これには俺も赤井さんも驚きを隠せなかった。

「ちなみに彼女俺と婚約者です」

安室さんの言葉にも驚くが、まさか人が狼になるなど想像できようか。
狼がクルンとその場でバク転をすれば人型に戻る。

「え?じゃあの時助けてくれたのは…」
「私だよコナン君」

ニッコリ笑う彼の言葉に驚きを隠せないのは俺だけではなかったはずだ。

「この世界には真神さんのような方は多くいます。例を出せば天皇陛下、彼らもれっきとした天照大御神の血を継いだ方達です。他にも妖狐の血を引いた者や…悪魔の血を引いた者もね」
「私と天照大御神は別の存在になるので間違えないようにね」

そう言ってのんきにお茶を飲む彼女に俺達は開いた口が閉じなかった。

「話がそれましたが、夢猿はこれから貴方達が生きている間にきっと接触してきます」
「その為に…これを」

そう言って奥村さんが出したのは二つの銃と小刀だった。

「これには呪をあらかじめかけています。もし夢猿に遭遇したら躊躇なく親玉である夢猿を倒してください。夢猿の親玉は列車の先頭に必ずいます。倒した後はまたきさらぎ駅で降りてください…もしきさらぎ駅を過ぎても必ず降りてその銃と小刀を鬼に見せれば元の世界に戻れます」
「あの鬼神と閻魔大王には彼女から既にこのことを伝えてもらっています」

安室さんと赤井さんは必然的に銃を俺は小刀を手に持つ。本当に小さい小刀なのだが子供が持っていることがバレると面倒な為、フェレス卿が呪をかけておもちゃの刀にしか見えないようにしてくれた。それを燈さんが首から下げるために紐をつけてくれた。
その後は不思議な扉で工藤家まで送ってもらった。なんと時空間を利用した便利道具らしい。

「では僕はこれで」
「あぁ、ボウヤはこのまま泊まるんだろ」
「うん…疲れたしね…」

安室さんはさっさと帰宅し、赤井さんも変装をしていない為すぐさま工藤家のカギを開けてさっさと入ってしまった。今日はホームズで盛り上がったのに最後は最悪だった。
しばらく電車は勘弁だな…そんなことを思いながら服の中に隠れている小刀をぎゅっと握って自宅へ足を進めた。



【今回は無事逃げれたようですね…またのご利用お待ちしております〜】



〈夢猿、きさらぎ駅終〉