次の日。俺は何かヒントが無いか自宅の書庫で昔の米花町の地図を見てい。
町中を歩いて回ったが神社やお寺には厄病神に関して特に有力な情報はなかった。そのことを安室さんに愚痴れば、「昔の米花町はどうだい?」とヒントを貰った。
俺が生まれて17年。然程変わったところも無いが変わっているところもある。家に親父の資料として残っていないか調に来たのだ。
昴さんに手伝ってもらえば案の定上の方に昔の米花町の地図があり、それを二人でのぞき込む。

「ほぉーこれが昔の米花町ですか」
「うん、あここが俺達の家のある場所だね」

今の地図と見比べてみれば、今とは全く違った米花町の街並みがあった。
俺の家の周りはどうやら山だったようだ。

「あ、ここに…」

昴さんが指を指す所を見れば、俺の家から近いところに昔小さな祠があったようだ。
すぐに靴を履き、その場所に向かう。

向かった場所には確かに小さな祠のようなものがあった。
本当に小さなもので、誰も整理しに来てないのか草が伸びている為屋根の部分が少ししか見えない。昴さんも後ろからついてきていたようで、草を抜くための道具一式を持ってきてくれた。
二人でせっせかと草抜きをしていれば、ようやく祠が全て見えるようになった。

「これ…かな?」
「流石にこれだとは言えませんね…何か思いだせませんか?」

昴さんの言葉に記憶を探るが昨日同様全く思いだせない。
その時…保育園から帰ってきているのだろう親子の会話が耳に入る。

「お母さん約束だよ」
「はいはい、約束ね」

「!!!」
「コナン君、どうしました?」
「や、くそく」

何だ?"約束"という言葉が異様に耳に残る。

「ワン」
「え?」

いきなり聞こえた声に足元を見れば白い狼がいた。

「燈さん?」

名前を呼べば狼は尻尾をパサッと一振りする。
そして綺麗になった祠に近づくと一瞬にして世界が変わった。

「「!!!」」

まるで時が止まったように雲が動きを止め、風の音も何も聞こえない。

「これは…」

昴さんが声を出した時だった。

【…あや懐かしや】

俺の後ろから声が聞こえた為後ろを振り向けば、灰色のボロボロの布を被った人が現れた。
現れた人はスーと祠の傍にいる狼姿の燈さんの傍に行き、言葉をかける。燈さんは瞬時に人型に戻る。

【おおアマテラス大神、我からこの子を取ろうとするのかえ?】
「いいや、そんなことはしないよ。だが厄病神や、貴女は何を約束としてこの子に憑いている」

厄病神はおかしそうに笑いながら俺の傍にきて方に手を置く。

【ボウヤとは約束したのじゃ、それを果たすまで坊やに憑くと】
「その約束とは何だ」
【それは貴殿にでも答えられぬ】
「言え」

いつもほや〜とした話し方ではなく鋭い言葉が彼女から放たれる。
その気迫とはいつもとは全く違うモノで、自然と足が震えていた。昴さんを見るといつものポーカーフェイスを保っているようだが、額には汗が出ていた。

【…それを聞くためにわざわざボウヤがここに行くように仕向けたのかえ?】
「そうだ…貴女が彼に憑いていることで、彼に直接的な影響はないものの周りに少なからず厄を呼び寄せている」
【…我は約束を守っているにすぎん】
「やはり言わないか…新一くん、彼女との約束思いだせない?断片的なモノでも構わない」

といわれても…。
考えてもほとんど思いだせない。だが何か方法はないか?
先程の会話から推理できないだろうか?

"約束"、"厄病神"、"周りに影響"、"それを果たす"、"探偵"…あれ?
"ホームズみたいな探偵になる"

「ほー、ムズのような探偵…」
【!!!】
「…成程、それか」

ピクリと反応した厄病神に燈さんはニヤリと笑うと、どこから出したのかバチバチと電気を帯びた金色の刀を取り出す。

「厄病神、アマテラス大神が命じる。真実を述べよ。述べなければその剣の餌食とする」
【…我はずっと昔から厄病神としてこの祠におった。だが我とて神の席を担うモノ。供物や礼拝されればその力を抑えることができておった。だが人々の信仰は薄れ、我の力が暴走しようとした時、ボウヤに会った】

灰色のフードから見える赤色の瞳を見て俺の中にあった記憶がどんどんあふれ出した。
そうだ、俺は小さい頃この祠に気づき、手を合わせた。その時は願いを叶えてもらうためにお祈りしたと思う。
そしていつの間にか厄病神が立っており、俺は願った。

【「ホームズのような立派な探偵になれますように」】
【…思いだしたようじゃな】
「はい…」
【我は厄病神じゃ。取り付いた者の周りに厄を呼び込む神じゃ。その力を使って主の周りに事件を起こせばボウヤの力になれると…】
「…なるほどな」

そうだ、確かに厄病神はそう言った。それで俺は了承したんだ。

【ボウヤには迷惑をかけてしまったようじゃな…我が外にいることによってこの米花町では常に厄が舞い込み、事件の多い町となってしまったようじゃ…】
「そうだな…この米花町の事件数は日本でトップクラスになるほど多い…だがその代り、悪魔が悪さをするのは殆どないのも事実だ。まぁ霊は多いが…」
「!!どういうことですか?」

燈さんの言葉で俺は彼女を見る。彼女はその漆黒の瞳でジッとこちらを見る。

「厄病神はそのモノにとっての厄だ。人にとっての厄は事件だったりするもの。だが悪魔にとっての厄は清め」
「!!」
「成程…ボウヤは常に町中を歩き回っている」
「そう君は知らず知らずのうち、疫病神を連れまわし、町中の悪魔関連の事件が起きないよう街を清めていた…という訳さ。そして悪魔憑きの新一君が悪魔や霊を見れなかったのは、疫病神のせいでしょうね」

俺は疫病神を見る。厄病神もこちらを見ていたようだ。

【見えることも、見えないこともどちらも厄じゃ】

「さて、約束内容はわかったがどうする新一君?」
「え…」
「約束が分かった以上私は貴方から厄病神を祓うことができる。だが厄病神と約束をしたのは君だ。君がその約束を果たすまで憑いてほしいというならそのままにする。人に厄は入ってくるものの、この街で悪魔の被害が少ないのは事実だから」

…そんなのもう決まっている。

「人に起こる事件は俺が解決できるけど、悪魔関連の事件は見えない俺じゃ解決できないしな…これからもよろしくお願いしますよ、厄病神さん」
【…フフフ約束じゃ】

厄病神にそう言えば、厄病神の赤い瞳からスッと涙がこぼれ、その姿は消える。
周りの風景も先程とは違ってにぎやかなものになる。久々に感じる風の音に耳を澄ませれば、昴さんの声が聞こえる。

「ほぉー、これでボウヤは厄病神憑きとなったのか」
「うん、元々だから実感はないけど…ね」
「新一君」

手をにぎにぎさせていれば、燈さんが目の前にしゃがむ。

「話は変わるが、厄病神を祀っていた祠の神体が痛んでいた。厄病神は厄を抑える力が弱まると強大な厄を呼び込む」
「…御神体が」
「今私が清めたが、これは人々の祈りで力を取り戻すもの。可能なら時々でいい、祠で感謝の祈りを捧げてほしい。前は事件を解決した君に感謝の言葉が述べられ、それが厄病神の力となっているようだが、今は君ではなく、毛利探偵に感謝の言葉が向かっている。
その為厄病神の力が溢れ過ぎてしまったことが最近怪異に合う原因だろう。
それに神体が破壊しては、君との約束を終えた時に大変なことになる。
神が力を保つためには人々の感謝の祈り無くしては無理なのだから…」

その言葉の後に強風があたりを包む。思わず目をつむってしまったが、目を開けた時には燈さんの姿はどこにもなかった。

こうして俺に憑いているのは死神ではなく、厄を呼び込む厄病神が憑いていることが分かった。
今年の夏は、本当に怪奇現象に巻き込まれる年だった。
八尺様、コトリバコ、夢猿、きさらぎ駅、地獄、疫病神…まだまだこれからもこれらと関わってくることは多いのだろう。
俺とその周りの人たちを巻き込んで…。


〈厄病神 終〉