世間はシルバーウィーク…。
俺たちは青森へ向けてあさがたに乗り込んだ。
……正直に言おう、寝台列車の旅は……。

「「楽しかった…」」

俺と赤井さんは同じ部屋で二人頭を抱えて縁側に座って同じタイミングで呟いた(蘭とおっちゃんが同じ部屋)。
よく考えてみればいくら寝台列車と言えど、区間は東都から青森。そう簡単には異界に入らないよな。
上記にも言った通り列車での旅はとっても楽しかった。
沖矢さんに扮している赤井さんも満足な様子だ。

「さてせっかく青森に来たんですから観光しに行きましょう」
「うん!!」

おっちゃんと蘭とはほぼ別行動の為今回の旅は本当にゆっくりできそうだ。

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「燈」

赤と黄色、橙のコントラストが美しい紅葉の森を俺の隣でジッと見ていた彼女を呼べば、その漆黒の瞳をこちらに向ける。

「ここが例の場所の入口?」

そう言って彼女の目元の紅い隈取を撫でながら尋ねれば、肯定するかのようにフリッと尾を振る。

今日は探偵の安室としてこの場所にきた。
青森県のとある村…いや嘗て"村"と呼ばれた場所だ。
今は廃村となり、人は誰も住んでいないどころか、地図からも県の公式文章からも消された村だ。
今回の依頼内容がこの村にある彼女の親の形見を取りに行くこと…正直探偵の依頼内容でも簡単なものだと高を括っていた。土地名を聞くまでは…。
正式な依頼内容は「青森県にあった杉沢村と呼ばれる村の奥…村長の家の中の座敷の奥にある先祖の形見を取ってきてほしい」だった。
杉沢村に関しては警察庁の文献でチラッと見たことがある。
昭和初期、突如狂った村人の一人に村人全員が殺され、最後は己の命も断った、という話だ。
正直、八尺様に夢猿、きさらぎ駅の件もあったから断ろうとしたが、俺の足元の影から出てきた燈の使者に"受けろ"、といわれ受けることになった。
そして世間はシルバーウィークの日青森へとやってきた。
横にいる彼女と共に…。

「霊感ゼロの俺でもわかるよ…」

そう言えば彼女はチラッと俺を見て、真っ直ぐ目の前にあるモノを…痛んで塗装も剥げた鳥居を…。その横に鎮座するようにある髑髏岩を…。

「ここから先はヤバいって」

そう言った瞬間鳥居からは生々しい風が吹き、頬を撫でる。

「でもこれを逃しては次この扉が開くか分かりません」

そう言って後ろからやってきたのはカチャと銃の弾を装填した雪男君だった。その後ろからは彼の双子の兄という燐君と彼の使い魔のクロだ。

「鳥居だ!!見ろクロ!!」
[燐、ここ俺すごく嫌だ]

燈が言うには、俺に接触してきた女性が今回この村を異世界へとつなげるための鍵らしい。
彼女が人に頼み事をするとこの杉沢村への扉が開かれるという。
今回の件で正十字騎士団は杉沢村を永遠に現世へと接触させない為にやってきたのだ。
何があるか分からない今回の件では少人数だが実力のあるモノ達が選ばれた。
仏教の系統である勝呂くん、志摩、そして巫女の血筋の神木さんに、魔神の血を引く奥村兄弟だ。
何故俺も…と思ったが、依頼主の彼女は俺に印をつけたそうだ。その印がないと杉沢村は開かない…そういう仕組みになっているようだ。

「にしても本当嫌な気配が漂ってんなぁ」
「おい、志摩、お前降谷さんの後ろに隠れんな」
「だってぇ…森って言ったら虫ですよ〜」
「あ、でっけぇ蛾」
「ぎゃあぁぁああぁああ!!!」
「ちょっとくっつかないでよっ」

元気な学生に溜息を吐く燈。
そして俺に座るようにその前足で指示をする。指示通りしゃがめば、彼女の額が俺の額に当たる。
そしてホゥと温かな感触が広がれば、その温もりは離れる。
目を開ければそこらへんに漂う黒い物…成程、これが魍魎(コールタール)か…。額に手を当てながらあたりを見渡していれば、神木さんがスッと鏡を見せてくれた。

「アマテラス大神の加護を貰ったようです。これがある限り、死の危険は避けられるはずです」
「…死の危険は、か」

苦笑気味に鏡を見れば、額には燈の額と同じ模様が付いていた。

[安心しろ、俺もついている]
「降谷さん、聖水で清めた弾と銃です。これを使ってください」

奥村さんから渡された銃は普通の銃と同じのようだが、この世のモノではないモノと戦うには一番いいのだろう。
銃をホルダーにセットすれば、燐君が声を上げる。

「おっしゃぁ行くぞぉー!!」

そして俺達は鳥居をくぐった。


その数分後。

「あれ、こんなところに鳥居がある」
「ほぉー…だいぶ古い物のようだな」
「行ってみる?」
「あぁ、時間はまだ沢山あるからな」

そう言って二人は鳥居をくぐった。