昴さんと共に村を歩くが、人の姿は見えない。
それなのに、田んぼには稲以外の草が生えておらず、道にも車輪の跡は残っており、人が住んでいるという形跡はあちこちにある。

「…いないね」
「えぇ…」
「どこかに皆行っているのかな?」
「村人全員…とは考えにくいな」

確かに…。村人が何か祭か何かで出払っていたとしてもどこからか音が聞こえないとおかしい。
近くの家に俺たちは向かうことにした。
昔ながらの家…そう鉄筋スマッシュでTOKUOが作った日本家屋に似ている。
チャイム…はないので木製の扉をコンコンと叩き「すみませーん」と声をかけるが中からは返事等ない。
沖矢さんも耳を澄ましていたようだが、物音も人の気配もしないらしく、左右に頭を振る。

「…これほど綺麗な景色なのに人が一人もいないなんて」

そう呟いた時、沖矢さんが何かに気づいたように上を見るようにいう。
何を…と思いながら上を見れば信じられない光景が映っていた。

「な、何あれ!?」
「…どうやらまた怪異に遭遇している、ということだな」

青い空があったと思ったがそれは全く違った。
空には俺たちがいる場所とは正反対のおどろおどろしい世界が広がっていたのだ。
こちらで広がる綺麗な田園とは違い、あちらには草が生えるだけ生えた田んぼの原型を保っておらず、更に道は草で覆われ、道という道ではない。そして草村の中を進む人影。それには見覚えがあった。

「燈さんに、降谷さん、奥村さんと…志摩、それに勝呂さんだね」
「あとあの青い炎を纏っている少年と、狐…と共にいる少女…」
「でもきっと正十字騎士団の人たちだよね」

その言葉に沖矢さんは頷く。
俺たちは上の世界をジッと見ていた。
だから気づかなかった。俺の首から下げている短刀が淡い光を発したことに…。

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燈と燐君を先頭にして俺達は獣道を歩く。
俺の肩にはイナバが乗っており、常に耳をピクピクと動かしていた。

「…貴方には指一本触れさせません」
[慈母様の婿様は俺らが護る]
[そーですよー]

神木さんとその使い魔が得意げにそう言ってくるので苦笑を返す。
巫女で、妖狐の血が流れている彼女にとって慈母である燈は神と言える存在なのだろう。
とそこまで考えた時、戦闘にいた二人が立ち止まる。燐君の肩に乗っていたケットシーのクロ君もその姿を大きな猫又へと変える。
そして三人?ともいきなりバッと空を見上げる。

「…なんやアレ」

勝呂君が呟いたのは無理もない。
俺たちがいる世界とは全く正反対の世界が蒼空には広がっていた。
田んぼには黄金に輝く稲があり、道は綺麗に整理され、ところどころに点在する家は昔ながらの日本家屋だった。
木々は今の季節のように紅、黄、橙に染まっていた。
美しい世界を見ていれば、ところどころに見える黒い靄。それらが向かっている先を見れば、そこにはコナン君と沖矢の姿があった。何故ここに…

「なんで、二人がっ」
「くそっ」

雪男くんがそう言った時だった。
草村からズルズルと足を引きづリながら、人であった者たちがやってきた。
服は布切れ一枚辛うじて羽織っているような状態に、肌の色は生気が無くなり、土色、足を引きずっている為足の皮がはがれており、身体はところどころ腐敗が進み骨が見えたり、臓器が出ているモノもいる。

「…杉沢村の被害者たちでしょう。皆さんあの二人も気になりますが、まずはこの包囲網を抜けます!!」
[二人には加護の力を宿した武器を与えとる!!あの靄ごときなら大丈夫だろう!!]
「おっしゃぁ!!それなら早く片づけるぞ!!」
「己が死んだとも気づかず永遠と彷徨う…悲しきことや」
「新一君、お気をつけて…」
「二人とも行くよ!!」
[[おう]]

最後に燈の遠吠えで全員が向かってくるゾンビに武器を向ける。
二人とも無事でいてくれ…。