夕飯の時間になった。
夕飯と言ってもまだ日も落ちていない5時。
やはり昼間に見たことが忘れられず、俺はここに住んでいる蘭の曾祖母に質問することにした。
年の割にはしっかり会話ができるのはありがたいことだ。
ちなみに夕飯は安室さんと蘭の手作りだ。

「ねぇ、おばあさん」
「何だいボウヤ」
「あのね、ここら辺にすごく身長の高い女の人って住んでいるの?それこそ生垣ぐらいの身長の女の人」

俺の質問を聞いた蘭の曾祖母はカランと箸を落とし、わなわなと震えた。そして小さく「あ、あぁ恐ろしや…」と呟きだす。そして咳き込んでしまった。蘭とおっちゃんが慌てて背中をさする。

「コナン君、今の話詳しくしてくれるかい?どこで見たとか…」
「え、あうん…三時ぐらいかな、白い帽子をかぶって白いワンピースを来た身長が二mぐらいある女性が家の前を通っていったんだ…」
「その時、"ぽっぽ"っていう奇妙な音は聞こえたかい?」
「なんで…安室さん知っているの?」
「…面倒なことになった…すみません、電話してきます」

安室さんは俺の言葉に全く反応することなく、スマホ片手に部屋を出て行ってしまった。
一体何のことだと思っていれば、咳き込んでいた曾祖母が俺に向かって、皮と骨だけの手を伸ばしてきた。

「あぁぁ…またもや我が家から八尺様に魅入られた子供が出ようとは…なんたること」
「はち、しゃ…くさま」
「小五郎ちゃん覚えとらんかね?主がまだ幼き頃のことを…」
「………」
「お父さん?」
「思いだした…俺の従兄弟が…」
「そうじゃ、主の従兄弟は八尺様に魅入られ、魂をさらわれてしまった…」
「確か…寺に行けばいいんだったよな?」
「無理じゃ…八尺様に対抗できる僧たちはもうおらぬ」
「…そんな」

そこまで話して曾祖母は悲しそうに目を伏せた。
一体俺が見たモノは何なんだ…。今から殺人事件でも起こるのかよ…。
そんな時バタバタと廊下を走ってきたのは安室さんだった。

「知り合いの祓魔師に連絡しました。すぐにこちらに向かうそうです」
「安室…助かった…」
「…そなたは知っているのだな」
「えぇ、まさかこんなところで八尺様に遭遇するとは思いませんでしたが…。
コナンくん、いいかい。今から君を札を張ったに閉じ込める。それこそ明日の朝までだ」
「え…」
「頼む、きっと理解できていないと思う…だが、今は大人しく指示に従ってくれ…」

余りにも真剣にこちらに語り掛けてくる安室さんに俺はただ頷くしかなかった。

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しばらくすると黒いコートに身を包んだ男性二人がやってきた。

「失礼します。毛利様のお宅ですね」
「あぁ」
「日本正十字騎士団より派遣されました、奥村雪男です…そして」
「同じく正十字騎士団の勝呂竜士です、今回はよろしくたのんます」

二人は真っ黒なコートに身を包み、胸にはロザリオがあった。二人は毛利家の一室を借り、その部屋に向かいながら俺に説明をする。後ろからは安室さんがついてきてくれる。

「貴方が見たのは八尺様。いつより現れたのかは分かりませんが、その存在は人伝いに伝わっているいわば怪異と言われる存在です。
八尺様は幼い男の子に魅入り、その子供の魂を己の者にするといわれています」
「そんな存在いるわけ…」
「きっと坊主には信じられんかもしれへんが…ここは俺達のいうことをしっかり聞いてくれや」
「八尺様はきっと夜、君に話しかけてくる。それは毛利家の方達の声かもしれないし、もしかしたら僕たちの声かもしれない…でも決して扉を開けてはいけないよ」
「コナン君、僕たちは絶対に君に話しかけることはない。奥村さんが言った通り決して扉を開けてはいけないよ」

安室さんの言葉に頷けば、彼は俺の頭にポンと手の平を置く。そして奥村さんの案内により部屋の中に入ることになった。部屋の中には沢山のおびただしい札と、四方に置かれた塩、そして布団におまる、中央には小さな地蔵がおかれていた。あと少しの食べ物とテレビに本が置かれていた。

「ええか坊主、何度も言うとるが決して扉を開けたらあかん…たとえ外から知り合いの悲鳴が聞こえてもな」
「ここの結界は外からの侵入には強いが、中からは簡単に開けられるようになっている…君が開けてしまえばたちまち八尺様の餌食だ」

奥村さんの言葉は坦々としており、ゾッと背筋を嫌なものが駆けのぼる。

「…安室さん、何時になったら僕は扉を開けていいの?」
「そうだな…朝日が昇って遠くから狼の声が聞こえたら開けていいよ」
「おおかみ?」
「あぁ、きっと彼女は吠えてくれるさ」

そう言って安室さんと奥村さん、勝呂さんは扉を閉めて出て行ってしまった。
初めて来た毛利家で一人になった恐怖…俺は身震いをしつつ、部屋に置かれたテレビをつけることにした。

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一方外に出た三人…

「貴方があの人の…確かにすごい加護を持っていますね」
「初めて見ましたわ」
「心配性なんですよ僕の婚約者は」

そう言って沈んでいく日を見る安室。

ーコナン君にとって今日は長い夜になるだろう…。