ふとテレビに映していた視線を時計に向ければ、部屋に入ってもう7時間経過しており、時刻は夜23時を指していた。
外を見ようにも障子によって外は見えないが、虫の鳴き声や蛙の鳴き声が聞こえていることから、何も異変は起こっていないようだ。やはりあれは子供を驚かせる何かだったのではないかと思えてくる。
よく親や祖父母たちから聞かされる話は怖い話が多い。
例えば黄昏時間までに帰らないと幽霊にさらわれるとかそういったモノじゃないのかと思うようになった。
それならば別に怖いこともないな…時間も遅くなってきたことだし、寝るか…。
そう思いテレビと電気を消して布団に潜り込む。(ロウソクはついたままにしている)…なんか畳で寝るのって新鮮だな…そんなことを思っていれば自然と睡魔はやってき、いつの間にか俺はぐっすり寝ていた。

ーはずだった。
突如背筋をかけた悪寒により、瞬時に身体を起こしあたりを見渡す。
蝋燭の光により、ぼんやりと見える世界は寝る前と何ら変わりはなかった。時計を見れば丑の刻を指している。
丑の刻…午前2時は草木も眠るといわれる時間帯で、この世のものではないモノたちの力が強まるといわれている時間帯だ。そんな時間に起きれば、嫌な汗が出るというモノ。
ましてや今ここにいるのは己一人のみ。

ーゾッ

またもや感じた悪寒に障子の方を見れば、ただお札が貼られている障子があるだけだ。
無意識に息を止めていたようだ。ハッと息を吐いた時だった。

ーガタガタガタガタ!!!

「っ!!!!??」

突如として障子が取れそうな勢いで揺れる。余りのことに驚き障子から離れる。
今、一体何が起こった?訳が分からなくなる思考を必死に整理しようとするが、目の前で起こっていることが信じられなくて、ただただ混乱するばかりだ。
しばらくすれば、障子を開けることをあきらめたのか音がしなくなった。それに安堵の息を漏らしていれば…

「コナン君、もう大丈夫だよ、ここから出てきていいよ」

蘭?
恐怖に煽られたときに、心から思っている女性の声を聴いて安心しない奴はいないと思う。
俺は無意識に障子に手を伸ばそうとしたが、ふと視界に入った白い何かを追って視線を送れば、四隅に置かれていた山形になっていた塩のてっぺんが黒く変色しているではないか。
それから俺の頭はまともな思考をしだしたようで、安室さんや奥村さん、勝呂さんに言われた言葉を思い出した。

"何があっても開けてはいけないよ"

その言葉を呟けば、冷静になる思考。
そもそもおかしいではないか、何故蘭がここにいる。もし呼びに来る初めの人物は奥村さんか勝呂さんじゃないか。
俺に反応がないと分かると次はおっちゃんの声で"ここから出てこい"と語り掛けてくる。
あぁ成程...あの三人がここまでしつこく忠告していたのはこの事が原因か...。
己と最も親しい人物の声をまねてここから出そうとする...。全く厄介きまわりない。
俺は地蔵の置かれている場所まで下がるとひたすらジッと障子の方に目をやる。その後も安室さん、蘭のひいばあちゃんの声とやってたが、俺が反応しないとわかると昼間に聞いたあの…

"ぽ...ぽ、ぽぽぽ、ぽっ...ポポポポポ"

という言葉が聞こえてくる。
あぁ、出なくて良かった。本当にそう思い、朝日が出て狼の鳴き声がするまではこれに堪えないといけないのか...俺はそう思いながら枕を抱きしめた。
にしてもなんで狼なんだ?
犬とか近所にいる鶏の声ならわかる。なのになぜ...?
安室さんは何を根拠に”狼の声がしたら出てきていい”と言ったんだ?しかも安室さんは狼を”彼女”とも言った。

思考の海に入っていれば、いつの間にかあの不気味な声が聞こえなくなっていた。だが時計はまだ3:00を少し過ぎたところだった。

ーぎゃぁぁぁあああああぁぁああ!!!

と、突如女性の断末のような声が響き渡る。

ーおのれ、犬畜生めがァァアアアア

そう言った後も叫び声と共に何かが地面にぶつかったりする音が響き渡る。
気になる…己の中にある好奇心が疼き、障子に手をかけようとした。

[童(ワッパ)、言いつけを護れ]
「!!!!??」

突如聞こえた声に声の聞こえたほうに目を向ければ、そこには兎のような生き物がいた。だが"ような"と言うだけあって兎ではない。身体は純白の毛に覆われ、耳は兎のように長いが、手はアライグマのような何かを掴むのに適した手になっており、その身体より長い尾を持っていた。尾の毛はサラサラとしている。大きさは猫ぐらいだろうか?

何時入ってきた?ここは侵入者には強い結界が貼られているんじゃ…いや、その前に

「しゃべったぁああ!!??」
[煩い、童だ…いいか俺は大神様の使役、イナバだ]
「…」
[混乱しているようだな…まぁいい、俺はあの方の命を実行するまでだ]

そう言ってイナバと言った獣は俺の目の前にやってきて、その長い尾を一度フリッと揺らす。

[眠れ、童]

そう獣が言った瞬間いきなり思考ができなくなって瞼が勝手に落ちていく。
…その後の記憶はない。