物語へと…

イタリアから帰ってきて数日たった頃、降谷は三雲と同棲しているマンションへ足を向けていた。降谷零としての本職である公安の仕事と安室透としての探偵業、バーボンとしての組織活動を終え、へとへとになりながら帰ってきたところだった。
駐車場には婚約者である三雲の愛車が久方ぶりに停まっていたから、恐らく彼女も帰ってきているのだろう。

エレベーターが上につき、扉を開けば温かな光とシチューの匂いが漂う。
そんな匂いを嗅げば降谷の腹の虫が鳴く。
リビングの扉を開ければ黒のエプロンを身につけ、鍋をかき混ぜる彼女の姿があった。
降谷に気づくと、その柔らかな橙色の瞳を細め、「おかえりなさい」と言葉をかけられ、反射的に「ただいま」と言葉を紡ぐ。それに満足したのか、彼女は「もう少しかかるからお風呂行ってきて〜」と笑みを浮かべながら言葉を紡ぎ、再度鍋をかき混ぜる。
そんな姿に降谷の胸にほっこりとした温かな光が灯る。

ーあぁ、いいな…−

そしてそんな言葉がフッと頭によぎる。
潜入中な上に、ボンゴレという驚異的な組織を監視するために婚約したのにそんな言葉を思うなんて…そう自傷しながら風呂に入るため、自室に向かう。
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「え、私も?」
「えぇ、明日その依頼主の結婚パーティーがあるらしく…できたら共にどうかと思いまして…」
「…私面接しなくていいの?」
「許可はすでに貰っているから問題はない」

そう言ってシチューを食べる降谷を見て、苦笑を浮かべる。
降谷の話はこうだ。
依頼主である女性は夫となる男に浮気疑惑を持っているらしく、調査をしてほしいと安室に依頼してきたらしい。
そして彼がバイトをしている場所で結婚前夜祭を行うとのこと。それに自分も来てほしいというが、この男私の事をなんといってきたのか…。

だが私が明日外せない用事でもあったらどうするのか…そんな風に思っていたので顔に出たのだろう。
降谷は瞬時に気づき、眉間に皺を寄せた。

「…もしかして明日何か用事があったのか?それなら」
「いえ、無いけど、先にそれを聞くべきよ」
「…そうだな、すまない」

素直に謝る降谷に満足したようで彼女も食事を再開する。

「あ、そう言えば…ツナから貴方に封筒を預かっていたんだ」
「綱吉くんから?」
「そ」

彼女と正式に婚約した降谷は綱吉のことを名前で呼ぶようになった。
彼女は短く返事をして、自室から茶封筒を持ってきた。降谷は茶封筒をもらい中身を取り出す。
中には一枚の手紙とリングが一つ入っていた。
彼はそのリングを見て目を見開き、彼女を見る。
彼女はそれに関して何も言わずに笑みを浮かべるだけだった。
降谷は手紙を開けば手紙の上の方にボゥとオレンジの炎が灯る。

「わっ!!」

それに驚き手紙を手放したが、彼女は苦笑しながら手紙を取り、降谷に渡す。

「それはツナから正式な書状というやつよ…炎は燃え広がらないし、水でも消えないわ」
「死ぬ気の炎…」
「そ」

炎の意味を納得すれば彼は彼女から手紙を貰う。

《義兄さんは表向きとはいえ、探偵をしていましたよね?
これはボンゴレカンパニーの社長宛に(俺宛ですね)届いたものですが、ぜひ息抜きにでも行ってきてください。
本当は俺が行っても良かったんですが、同盟ファミリーとの会合が入っているため、お譲りします。俺自身そう言ったミステリーとか苦手ですしね。
少しでも頑張っている義兄さんの息抜きにでもなれば幸いです。》

そう書かれている手紙を彼は大事にたたむ。

「三雲…」
「貴方が今一番大変なことはツナも分かっているわ。
山を一気に登り切るのは難しいわ、少し休憩もいれないと…。
だから少し息抜きすることも大事よ?」

そう言って笑う彼女に自分のすることはお見通しのようだ。
彼女達になら頼ってもいいのかな…そう思いながらその指輪を見つめる