萩原研二

ひとしきり感動の再会をした四人を残して三雲と綱吉は子供たちと遊びに行った。
セバスチャンが気を聞かせ、テーブルとイスとお茶と茶菓子を準備してくれた。
四人は席に着いてしばらく無言だった。それはそうだ…死んだと思っていた同期が生きていたのだ。
何を話せばいいのか分からないのだろう。すべてを知っている天野は苦笑する。
無言に終止符を打ったのは、彼と最も仲の良かった松田だった。

「お前、なんで生きていたんだよ…いや、生きててうれしいんだがよ…俺はお前があの時…」

「あぁ、俺は確かにあの時死ぬはずだった…
だがその時たまたまボンゴレの嵐の守護者、獄寺さんと晴れの守護者の笹川さんがそのマンションにいてな…
爆弾の音に反応した獄寺さんが俺達が退避しようとした階に上がってきて、瓜…獄寺さんの匣兵器が壁となって爆破の衝撃はやわらげられた…
だが最後尾にいた俺は背中に重度の火傷を追負い、もう助からないってぐらい酷い火傷を負っていたんだが、幸運なことに笹川さんは晴れの守護者だった」

晴れの守護者という単語に反応する降谷。

「晴れの炎は活性…笹川さんの匣兵器で俺の細胞を活性化させ傷を治してくれたんだ。
でも瀕死の俺の傷を治すには時間がかかった…そのため、ボンゴレ専用のヘリでアジトに行き、治療を受けた」
「だが今までなんで連絡しなかったんだ…」

「できなかったんだ」

突如聞こえた声に四人は顔を上げる。
そこには銀髪の男…笹川了平がいた。

「萩原は爆破の際、頭部を打ち付け、記憶喪失となっていた」
「それで…」
「あぁ、記憶が戻ったのは、ほんの一か月前…」

降谷と松田は成程…と納得した。
爆破の影響で瀕死の重大に陥り、頭部をぶつけ記憶喪失…そのため同期である二人には連絡はできずじまいだったという訳だ。

「運よくその時は三雲が日本に居てな、すぐに身元は判明したが、傷が一つもない状態で警視庁に返すのはどうか、ということになり、九代目が警視庁に連絡して、萩原の身柄をボンゴレに預けるように頼んだ」
「…右も左も何も分からない俺にボンゴレの人たちは嫌な顔することなく様々なことを教えてくれた…今となっては第二の家族なんだ」

そう言って萩原は笑う。
その言葉に松田、降谷、天野は微笑みを返す。

「…もう記憶も戻ったから警視庁に戻ってもいいんだが…」
「何言ってるんですか、俺はここに残ります…ボンゴレに恩返しがしたいんです」
「しかし、九代目も十代目もそんなことは望んでいないと思うぞ?」
「それでも俺はここに残ります」

萩原は断固として笹川の言葉を否定する。
笹川はそれに対して困ったように降谷達に助けを求める。
だが、二人も萩原の意志を尊重しているようで、笹川を助けるようなことはしない。
そんな四人のもとに黒いマントをはためさせながら現れたのは綱吉だった。その後ろからは、雨の守護者である山本、綱吉と同じマントを羽織っている三雲がいた。

「萩原さん」
「…ボス」
「先程警視庁と連絡を取りました…山本」
「あぁ、
まずは記憶が戻ったことをうれしく思う。
萩原くん…君は警視庁でも貴重な人物…だが、我々警視庁は貴方の意志を尊重します。ボンゴレでその力を発揮するのも良し、我々と共に日本を護ることでも構わない…とのことだ」

萩原はその言葉に目を見開き、綱吉を見る。

「…俺としては本当の居場所…日の当たるところに帰った方がいいと思います…でもボスとしては居てもらいたい。
俺はまだまだボスとして、未熟な若造です…そんな俺でもいいならば…ボンゴレに残ってくれるなら…うれしいです」

そう言って太陽の光を浴びて茶色から橙に輝く瞳を細める綱吉。
山本も目を細め萩原を見る。
三雲は降谷の傍に寄り沿う。

「はい、ボス!!」
「良かった…」
「萩原さんがいてくれるなら、明るくなるな!!」
「だな!!」

山本と笹川は互いの肩を組み、嬉しそうに笑う。

「十代目!!」
「ボンゴレ〜」
「あぁ、ありがとう、二人とも」

あとから駆け寄ってきた獄寺と、ランボの手にはそれぞれ一つの木箱を持っていた。
否獄寺だけ二つ持っていた。

「萩原さん、天野さん…ボンゴレファミリーの家族として、これを…」
「…ありがとうございます」
「ありがとうございます、ボス」
「そして、松田さんにも」
「え、俺にも!?」
「はい」

萩原はランボから、松田と天野は獄寺からそれぞれ木箱を貰う。
木箱は桐でできており、その蓋にはボンゴレのエンブレムが彫られていた。
3人は「開けてみて」という三雲の言葉に互いの顔を見、その蓋を開ける。

「リング…」
「匣…」

萩原には緑色の石の挟まったリングと匣が、松田と天野には赤い石のリングと匣が入っていた。

「萩原さんは、雷の属性のリングと匣兵器を…天野さんと松田さんには嵐の属性のリングと匣兵器を…降谷さんはすでに貰ってますね?」
「はい」

そう言って降谷は先日貰ったリングと匣を出す。

「匣を開けるためには覚悟をリングに灯す」

ボゥという音と共に三雲のリングに炎が灯る。
そしてそれを同じ色の箱にカチッとリングを押し込めば、白い羽毛をもち、橙色の炎を散らしながらライファーンが出てくる。ライファーンは彼女の差し出した腕にとまる。

「雨のリングは雨の匣兵器しか使えない、だが…」
「大空だけはすべてのリング、匣兵器を使える」

そう言って山本がセバスチャンの紫色の匣兵器に炎を注入するが、開かない。
だが、綱吉が炎を注入すれば、一匹の蝶が現れる。

「リングの属性とその人本来のもつ属性が合わなければ、リングには炎は灯らない」

笹川とランボが互いのリングを交換して炎を灯そうとするが何も反応しない。

「ただ稀に微弱ではあるが複数の属性を持つ者はいる…ここでは姉さんと獄寺くんだね」
「使用者の炎とリング、匣兵器の属性が初めてそろった時、その力は使える」

その言葉に4人はもらったリングと匣を見る。

「まぁ、己の覚悟が炎として灯らなければ意味がないけどな」

はははーと笑う山本に4人は無言になっていた。
己の覚悟とは一体何なのだろうか…。
4人はただ無言で己の手元のリングと匣兵器を見ていた。