「………」
「ぬい!!」

ー一体これは何…
今朝方我が家に荷物が届いた為、何か頼んだかな?と思いつつも夫のモノかもしれないと思い荷物を受け取れば、ガサゴソと箱の中から音が聞こえるではないか…。
生き物でも入っているのか?と疑問に思ったが、伝票には荷物の中身には"ぬいぐるみ"と記載されていた。ぬいぐるみが動く?そんなバカなと思って箱を開けてみれば…コレが入っていた。

三雲は思考停止状態のようで、己の夫に似た姿をしたぬいぐるみに視線はくぎ付けだ。その間にもそのぬいぐるみは段ボール箱を己で必死によじ登り、彼女の前に腰?に短い手を当てドヤ顔をしているように見上げてくる。

ーあぁ、これ旦那だ
このクリーム色の髪に人より濃い目の肌の色、大きな目はアクアマリン色。ましてやこの自信にあふれた態度。これ完全に夫だ!!

三雲は瞬時に"ぬいぐるみが動く"、"話している"などの疑問点は捨てた。世界には摩訶不思議なことがある。己だって前世では死神と取引をし、ましてや転生としてこの世界でマフィアをしているのだから。

「君は…零さん?安室さん?それともバーボン?」
「ぬぬい!!」
「…零さん?」
「ぬ」
「……あむ「ぬい!!」さん…」

夫のどの姿なのかと疑問に思いながら名前を言っていけば、"零"には大きく左右に頭を振り"安室"の文字を言おうとすれば途中で鳴く?始末。
んーと一瞬考えたモノの超直感が働き一つの名前が浮かぶ。

「あむ、ぬい?」
「ぬい!!」

そうだといわんばかりに頭を振るこのぬいぐるみがなんだか面白く、クスクスと笑みを浮かべたのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「つ、疲れた…」

組織の残党狩りをFBIと雲雀恭弥率いる並盛財団と笹川了平率いるボンゴレ共に仕事をして早一か月。まだまだすべての残党を刈りつくしたわけではないが、ようやく終わりの兆しが見えてきた。
そして三週間ぶりにもらえた二日間の休み…。己の妻と再会できる。完全徹夜明けでだるい身体を必死に動かして三雲の待つ家に帰る。帰ったら何しようか…一緒に風呂に入ったり、少し遠出するのもいいな、彼女の我儘を聞くのもいい…そんなことを思っていれば、家の扉の前につく。
ガチャリとカギを回して部屋の中に入れば、シチューの良い香りが漂ってくる。なんだかこんなこともあったなっと思っていれば、パタパタとスリッパの音を鳴らして愛しい妻がやってくる。

「おかえりなさい」
「ただいま、三雲」

にっこりと太陽のように笑う彼女に俺も笑みを浮かべて返事をし、その細い身体を抱きしめようと手を伸ばした時だった。
「ぬい!!」とよくわからない第三者の声が聞こえた。
「ん?」と声の方に視線を向ければ、何故か己に似たぬいぐるみ?がこちらにその小さな手を挙げて見ているではないか。なんだこれは…。というか動いている?どういうことだ?こんなよくわからない物を作って己たちに送り付けてくるのは…スパナかジャンニーニか?(入江は降谷の中で常識人)。

「これ、零さん宛の荷物で届いたんだけど…」
「え?俺の?そんなの頼んだ覚えないけど…」

二人の間に沈黙が落ちる。その間にぬいぐるみは必死に彼女のズボンを引っ張って「ぬ、ぬ、ぬ!!」と短い両手を必死に伸ばしている。それに気づいた彼女は「もう可愛い!!」と普段ならあまり聞くことのない声でぬいぐるみを抱き上げ、頬擦りをしている。そしてぬいぐるみがリビングの方に手を向ければ「あ、火つけっぱ!!」とバタバタとキッチンの方に向かっていく。

ーちょ、おかえりなさいのハグは!?キスは!?まだ抱きしめてないのにっ!!

彼女の肩越しから何処か勝ち誇ったような顔をしてこちらを見てくるぬいぐるみに殺意しかわかない降谷。これはあれだ…日本で好き勝手にするFBIを憎んでいるときの感情に近い。

ーおのれ…許すものか…。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「憎い…ニクイ…殺してやる…」

昨日休みをもらっていた上司が何故か負のオーラを纏い、警察官が言ってはならぬ言葉を口にしていた。部下は勿論、まさかの上司までも今日の降谷の不機嫌さを遠巻きに見ていた。一体休みの日に何があったんだ…。

「…ふ、降谷さん?」
「…何の用だ風見」

眉間に皺を寄せ、安室時代の時には決して出てこなかった声が苛立ちと共に発される。風見はすでに逃げてくて仕方なかったが、これは後輩の為、上司の為、そして己の為だといわんばかりに言葉を発する。

「な、なにかお悩み事でもあるみたいですが…もしよろしければ俺に相談してくれませんか?もし、部下に相談できないのであればご友人に「それだ!!ありがとう風見!!」すか…は〜い」

机に頭を乗せていた彼は、風見の言葉を聞くなり、立ち上がりバタバタと部屋を出ていく。残された風見は唖然として彼の去っていた方角を見ていたが、良くやったと上司に褒められ、部下からは拍手を貰っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

「あははははははっ!!」
「…そこまで笑う必要ないだろ」

そう言っても目の前のこのグラサンは高笑いをし、更には呼吸困難に陥ってヒーヒー言っている。

「だってよぉ、まさか自分に似たぬいぐるみをどうしたらいいとか…ぶふっ!!ただの嫉妬じゃねぇか」

降谷が頼ったのは己の同期で比較的現在暇な松田である。昼飯がてら警察庁付近にあるラーメン屋に彼を誘って相談すれば、思いっきり高笑いされた。

「くくく…ちなみに何されたんだよ」
「…まずは再会のハグ、キスを邪魔され…」

それからは降谷の愚痴大会だった。帰宅した初日からハグ、キスは勿論、共に会話することもならず、どこかに出かけようと提案するも、「あむぬいが心配だから…」とマンダリンガーネットの瞳で.見上げられ、結局家でDVDを三人?で見ることになり、夜は奴が共におり、行為もできず…なにより

「いちいち構ってもらう度にドヤ顔でこっちを見てくるアイツが憎い!!!」

ダンっと机を叩き悔しそうにする降谷に松田はあまりにも哀れなことに苦笑しか浮かばない。というかぬいぐるみに表情筋はあるのだろうか…そんな疑問も出てくる。

「ならば、奴を捨ててしまえばよいのでは?」
「赤井っ!?」
「FBI?」

ラーメン皿が乗ったお盆を片手にその男…FBIきっての切れ者である赤井秀一はこちらを不思議そうに見た後、松田が隣の席を開けてくれた為、そこに腰を下ろす。

「話聞いてたんですね」
「あぁ、ちょうどこの店に入った時にな…でどうなんだ降谷くん」
「無理に決まっているでしょう、貴方バカなんですか…」

「どういうことだ?」と聞いてくる赤井に大きく溜息を吐いたあと説明をする。

「そんなことしてみてくださいよ、まずは疑われるのは共に暮らしている俺ですよ…そしてあのマンダリンガーネットの瞳で睨みつけ…待てよ、それもいいな」
「おい、気をしっかり持て、それ絶対嫌われて離婚されるパターンだからな」

赤井は二人のやり取りを聞いて「ふむ」と一言呟いて、様々な解決策を出すが、どれも離婚に行ってしまうパターンの為、却下される。

「大体なんで貴方そんなに離婚に向かうようなことばっかり思いつくんですか!!もっと穏便な方法を考えてくださいよ!!」
「あー…なんというか女心も考えないといけないからな…」
「難しいな…」
「貴方は潜入中も…」

その後は降谷の潜入時代の話(愚痴)で昼休憩が終わってしまい、降谷は先程よりもくたびれた様子で己の古巣に戻って仕事を再開したのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

またあの日から数日間、徹夜明けで重たい身体を引きずり、自宅の扉を開けばパタパタと可愛らしい音と共に彼女が現れる。その傍には相変わらず憎い奴の姿が。徹夜明けでまともに働かない降谷の思考は久々にバーボンへと変わった。

「零さん?」
「三雲、ちょっと見てもらいたいものが寝室にあるんだが…」
「そんなのあったの?」

不思議そうに頭を傾けた彼女に笑みを浮かべ、足元にいるぬいぐるみを拾い上げる。それを己の手の平に乗せ、三雲の腰に手を回しエスコートする。そして彼女を寝室に先に入れ、右手に持ったぬいぐるみを渾身の力でキッチンの壁に向かって投げる。

「ぬっ!?」

ポフンと柔らかな音を出してあむぬいは床に落ちた。
あむぬいは一瞬のことで訳が分からないとばかりに床に伏せていたが、パッと顔を上げれば寝室の扉を閉めようとしていた降谷…否この時はバーボンの顔をした奴は見下すように己の姿をしたぬいぐるみを見ていた。

「邪魔をされるのであれば、はじめからこうすればよかったんですよね」
「?何言ってるんです?」
「こっちの話だよ」

そういって無情にも寝室の扉は閉められてしまった。あむぬいは急いで駆け寄ったがぬいぐるみの力で扉に手が届くわけでもなかったのだ。

(Fin)