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さて、緑川が降谷から説教を受けている間に彼女は東都にある米花町に来ていた。

「さてさて、真実を追い求める彼はどこにいるかな…ルカリオ」

腰についているボールを一つ投げればそこから現れた犬を二足歩行にしたポケモンだった。
ルカリオは生き物が発する波動というものを感知することができる。そのため彼女のポケモンウォッチャーとしての活動に重宝されている。

「バルッ」
「あっちか…」

ルカリオが走り出した方へ走っていけば、川辺に出た。
その川辺の堤防をゆっくりと歩く紺色の制服を着た男女の姿を発見する。

「流石ルカリオ」
「バル」

頭を撫でれば嬉しそうに摺り寄せてくるルカリオの頭を撫でてやる。
見つけた二人に後ろから近付けば、彼らの傍にいたそれぞれの相棒たちが反応してこちらを振り向く。

「ピカ!!」
「ミミッ!!」
「あ、ピカチュウ!!」
「ミミロル!?」

二匹はこちらに駆け寄ってくる。
二匹が足元に来たので、その体を撫でてあげれば二匹からは気持ちよさそうな声が聞こえてくる。
彼らもいきなり走り出した己の相棒の後を追って駆け寄ってくる。
そして帽子を軽く上げた彼女の姿を見て二人は嬉しそうな声を上げる。

「リランさん!!ルカリオも!!」
「お久しぶりです!!…なるほどピカチュウ達が走っていくわけだ」
「やぁ、新一君、蘭ちゃん久しぶりだね、ピカチュウ達も元気そうでよかったよ」

リランの肩に乗っていたイーブイもピカチュウとあいさつを交わすルカリオ達を興味深そうに見ていた。
主である蘭に性格がとても似ているミミロルが声をかければ、イーブイも嬉しそうに挨拶をしに行く。

「本当に久しぶりですね、今までどこにいたんですか?」
「うーん、いろいろいたけど北海道にしばらくいたかな」
「…また山の中とか言うんじゃないですよね」
「ははは〜」

この二人は工藤新一と毛利蘭。
二人が十歳の誕生日の時、彼らにポケモンを送ったのは神崎リラン、彼女だった。
関係性としては、新一の父親ととあるパーティで知り合い「息子にポケモンを与えたいと思うんだが何がいいかな」と尋ねられたのがきっかけだ。
本人を見ないと何とも言えないと判断したため、次の日会いに行けばそこにいたのが当時9歳を迎えたばかりの二人だった。
二人は関東であまり見ることのないポケモンを見てキラキラと目を輝かせていたのを覚えている。
そして二人にピチューとミミロルを与えたのだ。
幼いことから空手をたしなんでいるということだったので、進化すれば蹴り技を得意とするミミロップになるミミロルを…。
なんでも興味を持ち首を突っ込んでいくところが似ているため、ピチューを与えた。
二組の相性はよかったようだ。

「ピカチュウもミミロルも愛情いっぱいもらっているな」
「チャァ〜」
「ミミッ!!」

「バルッ」

和やかに過ごしていればルカリオが警戒するかのようにあたりを見渡し、低い声を上げる。

「ルカリオ?」
「どうしたの?」
「…なるほど、ゆっくりはできないか」

先ほど警視庁でひと悶着あったし、きっと探されているのだろう。二人を巻き込むのは申し訳ないし、ここはさっさと渡して退散した方がいいようだ。

「新一君、君に渡したいものがある」
「?何ですか?」

そういって腰についているポーチから白い石が入った透明なケースを取り出す。

「何ですかこれ…」
「それは真実を追い求める者に力を貸すといわれるポケモン"レシラム”」
「ポケモン…これが?」

信じられないといわんばかりの顔で石をのぞき込む二人に苦笑する。

「まぁ見た目はただの石だからね…まぁ君が本当に真実を求めるとき力を貸してくれるはずだよ」

彼女はそう言って白い石…ライトスローンを撫でる。
己がレシラムの姿を見たのは彼らが石になる直前。
レシラムは”真実を求める者に我を渡せ”と一言伝えて石の姿になった。その頼み通りこの真実を求め続ける名探偵に渡したのだ。

「レシラムになった時私に連絡ちょうだい」
「わ、わかりました…これからどこへ?」
「うん、今からアローラ…ハワイに行こうと思って」

ピーと胸に下がっていた無限の笛を吹いてそう答えれば、二人から驚きの声が。

「い、今からですか!?」
「今何時だと思っているんですか!?飛行機最終便もう行っちゃいましたよ!?」
「ははは、大丈夫大丈夫」
「大丈夫って…」

新一がそういった時だった。
ビュオッと強い風が吹いたと思ったら二匹の赤と青のポケモンが彼女のそばをじゃれ合うように飛んでいた。

「ら、ラティオス…」
「ラティアス…」
「二匹は早いからね、頼むよ」

そう言えば、彼女の腕についていた二つのメガストーンが輝き、ラティオスとラティアスの姿が変わっていく。

「二人はまだ見たことないかもね…進化を超える進化…メガシンカ」

姿の変わったラティオスにまたがり、ルカリオとイーブイをボールに戻して、彼女はにっこりと笑う。

「蘭ちゃんミミロップに進化したとき私を探しにおいで、その時ミミロップのメガストーンを渡すよ。新一君ライトストーンを頼んだよ」
「は、はいっ」
「任せてください。リランさん、気を付けてください!!」

その言葉を聞いてラティオスに声をかければ、二匹はビュンッと音を立てて空へ舞い上がる。
それを地上で見ていた二人は感嘆の声を上げる。
そんな二人に近づく足音が。振り返れば、ウインディに乗った降谷が。

「降谷さん?」
「ど、どうしたんですか!?ウインディに乗って…」
「君たちここに神崎リランはいなかったか!?」

あまりの形相で聞いてくるので、二人は困惑しながらうなずけば、「くそっ」と一言呟いてどこかに連絡を入れている。
新一と蘭、ピカチュウとミミロルは困惑した表情で顔を見合わす。
降谷零…かれは少し前まで安室透という名前で彼らと接していた。だが本来は警察官で降谷零だと明かしてまだひと月…。こうも早い再開だとは…そう思いながら新一は己の肩に上ってたピカチュウを撫でる。

「ちなみにだ、行先など知らないか?」
「えっと…」
「アメリカのハワイ…アローラに行くと…」
「くっそ…」
「ほぉ、アローラか。早速我等の領域に入ってくれたな」
「赤井っ…」
「赤井さんまで…」

彼らがいる上空からウォーグルに乗った赤井がニヤリと笑みを浮かべて見下ろしていた。

「くそっ、風見俺は明日一番の便でアローラに飛ぶ!!」
『え?ふ、降谷さんっ!!?』

降谷はウインディから降りることなく、「じゃぁね!!」と声をかけて去っていった。
赤井も笑みを浮かべながら「楽しもうじゃないか」と呟いてウォーグルに空港に行くように指示を出す。
残された二組はぽかんとその様子を見ていたのだった。


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