0-3


少し時間を遡ろう…。
ちょうど赤井が警察庁についた時間帯頃…とある女性が都内を歩いていた。

「役所での申請は終わったから次は警視庁だな」
「ブーイ!!」
「そうか、イーブイは警視庁で生まれたもんな」

女性の左肩に乗っている茶色いポケモン、イーブイは何度もうなずき、尻尾をぶんぶん左右に振っていた。

「懐かしいなぁ…そろそろ生まれそうだなと思って申請している時に孵ったもんな」
「ブイブイ」

肯定するかのように声を上げ、彼女の頬に頬擦りするイーブイは本当に嬉しそうだ。
自分が孵ったこと...というより、今の主に会えたことその事の方がこのイーブイにとってとても嬉しい事なのだろう。
彼女もあまり見ないグレームーンストーン色の瞳を細め右手でイーブイの身体を撫でる。

彼女…神崎リランは、あの世界的にも有名なポケモンウォッチャーの一人だ。
彼女は基本野生のポケモンがいる山や洞窟、海などにいる。都会に行くことが少ないため、イーブイは人に連れられているポケモンや、お店などキョロキョロしながら見ている。
そうしていれば目的の場所に着き、イーブイは彼女の肩から己の生まれた場所を見上げる。

中に入れば、スーツを着た女性や男性、他にも紺色が特徴の警察服を着た人や、一般人が忙しなく動いている。
彼女がいくら有名な人物といえど、帽子をかぶっていれば案外ばれないのだ。
彼女はまっすぐに”手持ち申請”と書かれた部署に行き、役所からもらった申請用紙を提出する。

「お預かりいたしますね…!!ちょ、少々お待ちください!!」

書類を見ていきなり警察事務員の女性はどこかに電話を掛けた。
リランはそんなに変なことを書いただろうか?と疑問に思いながらイーブイと目を合わせ、書類を思い出す。
書類に書いたのは、名前、住所(点々としているため、未記入)、職業(ポケモンウォッチャー)、ジムやリーグでの成績(全制覇、全チャンピオン)、手持ち数(10体)だけだ。
特に変なことは書いていないし、もしかしたら新人でこういった書類の対応は初めてなのかもしれないな…そう一人納得し、頷く。
そんな彼女は気づいていない。彼女がとある警察官の協力者だということに…。
しばらくかかりそうだったので、近くの空いている席に座り、イーブイと遊んでいれば、名前を呼ばれたため、受付のところに行く。

「お待たせして申し訳ありませんでした」
「いえいえ〜」
「では、確認いたします」

そういって彼女は書類に書かれていること一つ一つ確認するように細かく聞いてくる。

「では、最後にこですが…「ようやく見つけた!!」キャッ!!」

女性が最後の部分を確認しようとした時だったいきなり、胸の部分に”R”と書かれた黒づくめの服を着た男が現れた。

「おやおや?ロケット団ではないかぃ?」
「神崎リラン、貴様をサカキ様の元に連れていく!!いけゴースト!!」
「全くこんなところでバトルとは…イーブイ頼めるかい?」
「ブイッ!!」

勢いよく彼女の肩から降りたイーブイはやる気満々と言わんばかりにゴーストを見る。

「ははは!!ゴーストタイプなのにノーマルなぞ!!もらったぞ、ゴースト"黒い眼差し"!!」
「浅はかな…イーブイ、”シャドーボール”」
「ブイッ」
「!!」

イーブイの口から黒々とした球体が現れ、それはまっすぐにゴーストに当たる。
一撃で倒れたゴーストにロケット団の男はうろたえる。だが、すぐにゴーストを戻すと次のポケモンを繰り出す。

「まだまだだ!!ワルビアル!!」

一言でいえばワニが二息歩行しているポケモン、ワルビアルが現れる。

「イーブイ、戻れ」
「ブイ」

イーブイはすぐさまリランの傍まで戻り、彼女は腰につけているモンスターボールを一つ取り出す。
そのもんすモンスターボールはところどころに傷が入り、年季が入っていることがわかる。

「頼んだよ、ガブリアス」
「ガァ!!!」

出てきたのはサメに足が生えたようなポケモン…ガブリアスだ。
彼こそ彼女の相棒で、様々なジムやリーグでのバトルを乗り越えてきたポケモンだ。
その貫禄はすでに出ており、威嚇の特性を持っているはずがないのだが、相手のワルビアルが怯むほどだ。

「ワルビアル、体当たり!!」
「受け止めろ」

ガッと激しい音と共にガブリアスに体当たりを充てるワルビアルだが、「ギャゥ」と悲鳴を出したのはワルビアルの方だった。

「うちのガブリアスの特性は"鮫肌"…容易に物理攻撃すると傷だらけになるよ」
「くそっ、ワルビアル”砂嵐”!!」

ワルビアルの起こす砂嵐により視界は最悪になるが、彼女は己の首元にあったゴーグルを装着する。

「ドラゴン、砂タイプに砂嵐って…ガブリアス、見つけ次第”ドラゴンダイブ”」
「ガゥ」

コクッとうなずき返した瞬間にダッと駆け出すガブリアスに迷いはなく、その体を紫色の光が多い、そのままワルビアルにドラゴンダイブを繰り出す。
技を出したワルビアルが戦闘不能になったため、砂嵐が消え去る。

「わ、ワルビアル…くそっ」
「さ、ここは警視庁だし、そのまま御用になれば?」

彼女がそういえば、彼はここがどこかを思い出したようで辺りを見渡す。
辺りには強面の警察官とゴーリキーやオコリザルと言った明らかに力が強うそうなポケモン達が囲んでいた。
男は逃げられないと悟ったようで脱力したところを御用となった。
一方リランは受付嬢に申請の書類がOKか確認してガブリアスにオレンの実を渡してボールに戻す。

「さて、ラティオスたちも待たせているし行こうか」
「ブイッ」

肩にピョンと飛び乗ったイーブイにもオレンの実を与えて踵を返し、入り口に向かおうとしたが今度はスーツを着た男たちがずらっと並ぶ。

「うぇーぃ…今度は何さ…」
「神崎リランさん、だよね」
「…ないけど何です?」

スーツをびっしと来た男たちの一人がこちらにゆっくり歩み寄ってくる。
男はキリッとした顔立ちをしており、温厚そうな笑みを浮かべているが、その瞳は鋭い。
どうにか逃げようかと考えたが、彼の傍には彼と似たような眼をしたピジョットが、こちらを逃がさないとばかりに見ている。
飛行タイプ…ましてや人を簡単に乗せれるサイズはやばい。走ってもピジョットの飛行スピードならモノの二秒で捕まる自信がある。人が多いところを逃げてもこちらも進みにくいうえに逃げ場所を特定することも可能だし、何より彼らは目が異様に良い。

「悪いけどさ、俺たちの上司が来るまでちょっと待っててくれない?」
「…用事はその人たちからってことですかね?」
「そうゆうことだね」

彼女はその言葉を聞いてため息を一つ吐く。
この男たちもロケット団の仲間かと思ったが、周りの警察官たちの反応からして違うようだ。
彼女は鍛えられた聴覚を活用して彼らの情報を得る。周りからは「公安」、「なぜここに」と言った声が多いことから彼らが公安警察だということは分かった。
公安だとわかれば己を悪用にしないだろうが、彼女はこれからとっても大事な用事がある。その為彼らの上司を待つという選択はない。
彼女は腰に手を当てて「はぁ」とため息を吐く。

「で?貴方は誰?」
「ん?あぁ俺?俺は緑川景光、でこっちが相棒のピジョット。よろしくね」

彼がそういった時外から誰か来たようでバタバタと走る音が響き、彼と相棒のピジョットが後ろを振り返った瞬間を彼女は見逃さなかった。
瞬時に腰に当てていた手を外し、右から二番目にあったボールを投げる。
ポンっと音を立てて出てきた人型のポケモン…サーナイトは出てきたと同時に周りにサイコキネシスをかけ動けなくする。

「ごめんねぇ、話を聞いてもいいんだけど、どうせ内容はFBIの彼らと似たような感じでしょ?」

こちらを振り向くタイミングで固められた彼…緑川に頭を傾げてそう尋ねる。

「これから私すっごく忙しいのよね、彼の元に行かないと…ってことでお話はお断り、サーナイト瞬時にテレポート」
「サー」

サイコキネシスをしているサーナイトの腕に彼女は手を添えれば、サーナイトはサイコキネシスを解くと瞬時にテレポートをして姿を消す。
サーナイトがサイコキネシスを解くと同時に緑川がピジョットに指示を出したが、すでに姿を消していた。

「おい、景光!!彼女はっ!!」
「すまねぇ…逃げられた…」
「はあ!?」

バタバタと音を立てて入ってきた男…降谷は幼馴染の彼に不満げな声を上げる。

「だって、まさか一瞬でポケモン出すなんて」
「バカっ!!彼女はあのポケモンウォッチャーだぞ!!一瞬の隙も逃すわけないだろっ!!お前は始末書だ!!!」
「うぐっ」
「ピジョットも…こいつと同じになったらいけないだろ?」
「ピジョ〜…」

長年連れ添った幼馴染だ。
降谷には直ぐに緑川が隙を見せたことが分かった。忌々しそうに舌打ちをした降谷に彼は恐る恐る声をかける。

「あ、あのなゼロ?」
「緑川!!降谷さんと呼べ」
「…風見いい…なんだ?」
「彼女去る前に"彼の元に行かないと”って言ってたんだが…」

「彼…?」

降谷は一瞬考えこむが、瞬時に公安の警察官たちに指示を飛ばす。

「彼女にかかわりのある男を瞬時に洗い出せ!!」

その言葉にバタバタと走り出し部下を見て、警視庁入り口に立っていた黒づくめの男を見る。

「今回は助かったよ、スコッチ…いや緑川くんと呼んだ方がいいかな」
「ははは…今礼を言うなよ…ライ」
「…貴様たちFBIに彼女は奪わせない」
「フッ…ではどちらが彼女を保護するのか競争と行かないか?」
「望むところです」
「なら、ルール作ろうぜ」
「「ルール?」」

話を聞いていた緑川は提案するように二人の間に入る。

「きっと彼女は無理やりというやり方が嫌いだ。だから、無理やり多くの部下を従わせて彼女を奪うのはなし、バトルも…まぁ勝てないかもしれないが、バトルに勝ったら来てもらうはなしだ。だが向こうからそう言ってきたらこれは有ってことで」
「…まぁいいだろう」
「OKだ」

「よし、ならそういうことで!!」

三人はにやりと笑ってそれぞれ警視庁を出たが、降谷は緑川に一言。

「だからと言ってお前の始末書が減るわけじゃないからな」
「…ゼロォ」



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