ガラパゴス


携帯電話を握りしめながら、画面に表示されている時間を目にして無意識に小さくため息を吐いた。
なんとも、世間とは小さいものだな思う。
海に、と誘ってくれた彼女のいとこだと語る喜八郎は、私の水着といとこに頼まれたと大きめのパラソルをさっさと購入して去ってしまった。
じゃあまた夏休みになんて言葉を最後にさらりと残したと思えば、学期最終日に彼女から告げられたのは、いとこが来たいって言うから。という喜八郎の予言めいた言葉を確信づけるもので。
いつ私の存在を見つけたのかは知らないが、男ひとり女二人の奇妙な夏休みの計画は私が全体を把握する頃には待合せ場所に地図が彼女からわたされるまできっちりと決まっていた。

「ごめんね。喜八郎寝坊したんだと思うの」

申し訳なさそうな表情で携帯を見つめる私を気にかけての声の主は、片手に最新機種だろうスマートフォンを持って時たま向こう側に先に行ってしまうからと言い放っている。
おそらく相手は喜八郎なのだろう。教室では見たことのない彼女のあきれたような様子は、いつもより大人びたお姉さんに見えてくる。
場所は、神奈川県の観光客向きではない地域の小さな駅の前。
待ち合わせ場所としてはわかりやすいが、三人の中で唯一電車で来ると確定した私にあわせてくれての待ち合わせ場所だろう。
電話を終えた彼女は、まだ困った様な表情で先に行きましょうと私の手を引くのだ。

乗せられた車には妙齢の男性運転手の後ろ姿が見え何も言わずとも進みだした車は、すいすいと海沿いの道を進む。
あけられた窓から少し熱気の混じった風が車内に吹き込んできて、潮風も夏らしく気持ちがいい。

「小さいペンションにしたの。あんまり大きいと三人じゃさみしいし、春本さんに気に入ってもらえたらいいんだけど」

「そうですね。私たち三人だけならば」

まだ午前中の空気は幾分涼しさも含んでおり、海上のきらきらとした光の反射は美しく見える。
今度両親もつれて来てもいいかもしれない。

「あ、あと。よかったら、名前で呼んでもいいかな?私も舞子でいいし」

不意に隣からかけられた言葉に振り向く。
綺麗に整えられた服装や髪のなびく質感から育ちの良さがうかがえ、それがいつかの初めて私に話しかけてきた後輩の姿と重なる。
のちに、すごく緊張したんですからと勢いよく言い放たれた事も同時に思い出し、思わずくすりと口元が緩めば予想外の反応だったようでびくりと目の前の彼女が小さく肩をはねさせたのがわかった。

「はい、舞子さん」

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20160804

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