おなじかお


よかったら友達とかも呼んでいいから。
そう言ってくれた彼女には悪いが、そんな呼べるような関係性の人間が側にいない。
母にちょっと買い物をしてから帰ると連絡をして、いつもの様に掃除を済ませてから教室を出ればもう日が昇っている時間が長くなってしまったせいで、夕日をなかなか拝むことができなくなってしまった。
その代わりと言ってはなんだが大きな入道雲の見える空は個人的にはすごく好ましい。
じっとりとねばっこく体にまとわりつく熱気を払い落とすように、ライバル店も入っている大型のデパートに一歩足を踏み入れた。
目的は、言わずもがな、水着の調達である。
入った瞬間にひやっこい空気によって汗がきゅっと肌を引き締めるのがわかり、体が冷房で冷え切ってしまうまえに御暇しようと特設されている水着のコーナーに歩み寄った。

ぐっと、強めの力で何かに腕を掴まれ体が傾く。

「どうも、彩先輩」

ふんわりとしたパープルグレイの前髪の隙間から見えるのは、大きくすべてを見透かした様な目元。
はじめましてなどという言葉は許さないとでも言いたげなその一言は、私に一瞬のよどみを作って隙を与える。
ぐいぐいと引っ張るその手は、絵の具なのだろうか爪の間や関節の皺に色とりどりの何かがつまっていた。

「水着、買うんですか?見繕ってさしあげます」

「あ…え…」

「先輩は、何色がお好きですか?昔は、熟した椿の花の様は濃い赤だとおっしゃっていましたが、今もおかわりないですか?」

「…そんなこと覚えて、いたの?」

水着売り場に足を踏み入れてみれば、色とりどりで形も様々な水着が並ぶ。
色別に分けられたそのブースはとても整って見えて、赤い水着ばかりのその一角は、少しばかりこの年齢とは似合わない大人びた雰囲気が漂っていた。

「喜八郎?」

不意に口を閉ざしたものだから、思わず小さく彼を呼ぶ。

「…お忘れではないでしょう?我が作法委員会。あなたを着飾り化粧をするのは一等楽しかったですからねえ」

にんまりと笑うその顔は、納得のいく蛸壺ができたとうれしそうに笑うものと大差なかった。

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20160528

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