曖昧me


空と海の色が微妙に違うのが好きで、きくようになった鼻が感じ取る潮のにおいはツンと頭の奥を刺激する。

「アイアイ、キャプテン!」

もふっと毛が揺れて靴のかかとがはじける。
私は今、しろくま だ。
この船で唯一のオレンジ色のつなぎと人間では無い大きめの体で白いふわふわとした毛に覆われた姿。
いつどうやってこの船に乗ったか、いつからしろくまなのに喋れるようになったのか、それこそ当たり前のように馴染んでいるせいで違和感が無い。
ベポと呼ばれ、船内を走り回る。
それがここでいう普通、当然の立場。

「ベポ。飯、部屋に運んどけ」

ピシッと背筋を伸ばして返事をしては、酷いくまの綺麗な顔が薄く笑みを浮かべる。
長い脚、細い体に不釣り合いな長い刀。
笑顔はだいたいが、にんまり、という擬音が似合う彼を私は自然とキャプテンと呼ぶ。
可愛らしいデザインの旗を、象徴のジョリーロジャーと称え彼をキャプテンと、船長と、船員は皆敬意を込める。
何か、何故か少しだけ違和感を感じながら毎日を当たり前だと過ごしていた。

「あ、れ?」

私って女じゃないの?人間の、大学生一回生のなまえじゃないの?
そんな言葉が浮かんだのは、タイミング悪くキャプテンの懸賞金を狙って襲撃してきた輩と対立していた最中だった。
ぐしゃり、と拳が相手の顔にめり込む感覚を感じながら脳内に懐かしい活字が浮かんでゆらゆらと頭を揺らめく。
ぼんやりしていれば、終わった終わったと笑い合う船員にどうした?と声をかけられた。

「わ、わたし…」

「?ベポ?」

頭打ったか?と笑いながら疑問を投げかけられ更に混乱し始める。
待って、待って、私なんでしろくまなの?
こんな声、私の声じゃない。私はこんな白い毛皮なんか知らない。

「…っ」

ボロボロとこぼれ落ちる涙が、流れる事なく頬の毛に染み込む。
ぎょっとする周囲を気にしている場合はなく、涙は溢れた。
低い私じゃない声が船上に響き、なんだなんだと人ごみは厚くなる。
泣かないで。と私の中で誰かが呟いた気がした。
集まってきた人の多さに気づき思わず目を見開いて、落ち着け落ち着けと無理やり笑みを作り、突き指しちゃったと冗談を述べた。
船長にちゃんと診てもらえ。そう言われるのはわかっていたから、誤魔化すようにしてその場を去る。

嗚呼、なあんだ。

普段寝泊まりする男臭い部屋の隅で、先ほど殴って少し赤い血のついた手をにぎにぎと繰り返す。
やはり何度確認したとしても本当にくまだ。
馴染む体にぎゅっと抱きつけば、背中に手が回らず思わず鼻で笑ってしまった。

「しろくまの」

「おす」

「はーとのかいぞくだんのべぽ」

「きゃぷてん、おこるかなあ」

何に?と聞かれたら私がベポであることだ。
ひとりごちる内容は幼稚な拙い言葉で紡いで、わざわざ自分で理解するというまどろっこしい事をしている。
私は、人間の時どんな顔でどんな声だったか。思い出そうにも何も浮かばない。
本当のベポは?なあんて問いかけが無駄なのもわかっている。
私がベポ。ベポは私。

「きゃぷてんごめんなさい」

私はあなたをいつからかだましてる。


end
20120703

ベポ成り代わり主による自覚。
変換ほぼなしですが、続けるとしたらロー相手です。
打たれ弱いとこが少し女の子みたいだと思ったので書いた


 next

[back]


ALICE+