運命の赤い風
「これが運命の見極め方ならば、荒北なんかすぐわかりそうだな」
日々のたわいない会話の中。
唐突に表れたその人に珍しいな、と思った。
こんな受験にかかわってくる時期に転校生など、のっぴきならない事情でもあったのだろうかとわずかに考えを巡らせるには十分な素材。
元陸上部で長距離の選手だったという彼女は、へらりと自分とはまったくちがった笑みを浮かべて頭を下げた。
「いい、天気だねえ」
教室の空気にしっかりと溶け込みだした矢先、授業中の静かな喧噪のなかで隣からの呟きに思わず顔を向けた。
途端、思わず握りしめていたシャープペンシルをことんと落とし、まだ記入すら一度もしていないノートの端に小さなチェックマークがつく。
向けた視線の先でこちらをじっと見つめながら、彼女はへらりと口元を緩める。
「走りたくなるね。思いっきり、足がちぎれるくらい」
「…体育なら今日ねえけどナ」
「残念、今、今すぐ走りたいのに」
俺から視線を外し、大きくない窓の外に目を向け、またぼそりそう呟いた。
わからなくもない、そんな澄んだ空気のするいい天気だ。
思いっきりペダルを回し汗をかき風を感じ、そう、少し疑似体験してしまえば足が小さくぐずりとうずくのがわかった。
「荒北…くんは自転車部だっけ?気持ちわかるでしょう?今日の風きっとすっごく気持ちいいよ」
ふわり、窓側にいた彼女の方から風が吹き込む。
向かい風は好きではない。
が、その吹き込んできた風には嗅いだことのない甘い匂いがして香水か、と微妙に鼻を鳴らす。
風が落ち着けばその匂いもすぐにおさまり、また風が柔く吹けば匂いは鼻へと滑り込んできた。
「お前さ、なんかふってんの?」
「みょうじなまえですよ荒北くん。香水なら好きじゃないです、石鹸が一番すき」
「でも、お前、なんか、」
いい匂いがする。などと言いそうになるが矢先。
一週間程前だったかに東堂から発せられた話題が頭をかすめた。
「相手の体臭がくさいお感じたら、遺伝子レベルで相性が合わない。ならその逆でいい匂いだと思ったら相性最高、運命の相手だとか考えてしまわないか?」
おいおい、待ってくれ。
目前できょとんとするみょうじを見る目ががらりと変わる。
いい匂いって言いそうになったんだ自分は、なんだって?運命の相手?相性?ハッ!
「これが運命の見極め方なら、荒北なんかすぐわかってしまいそうだな」
人より利いてしまう自分の鼻を、呪ってやろう。
どうかしたの?荒北くん?だなんて呼ぶんじゃない。やめてくれ。
少し動くだけでふわりと香るその匂いに、ひくりと鼻が揺れた気がした。
end
20140127
20140618加筆修正
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