蜜知らず、平坦


私はとても優柔不断な人間なのだ。

「巻ちゃん!」

「うぜえッショ、離れるッショ」

元は、まったく二人の事など知らないただの巻島くんのクラスメイトだった。
何の気なしに、たわいもない会話の中で、単純に走っているところを見に行きたいなどと言わなければよかったのではないか。そう、今では思い返す。
でも、これを見ずに、卒業していたと考えればもったいないと思わず口からこぼれてしまうだろう。
楽しそうに、本当に楽しそうに二人は走る。

「酷いな!巻ちゃんのためにわざわざ来たのに」

「はいはい、アリガトナ」

東堂くんをあしらいながら、巻島くんが私に手を伸ばす。
慌ててボトルを差し出せば手慣れた様子でその中身を喉に放り込んでいた。

「あ。なまえちゃん、すまないが俺にも」

「持ってきてないの?」

「甘えんなッショ東堂」

「巻ちゃんだけとかずるいだろう?」

な?と東堂くんは綺麗に笑う。
大きな目をくるりとさらに丸くして、差し出された手には、淡い水色の彼用に準備したボトルを渡すのだ。

いつから、彼等をうらやむようになっただろう。
巻ちゃん、と呼べる彼がうらやましいのか
巻ちゃん、と呼んで貰える彼がうらやましいのか

私はどちらに嫉妬しているのだろう。

「おいで」

どちらとも無く、彼は笑う。


Side onther

どちらが先に彼女を欲したのだろうな。
と、何度か話題に出したことがある。
同時だった、といつも最後にはそこにいきつきあの状況にあの顔をされたんだからたまったものではなかったのだと思い返す。
大坂を越え、周りの音を一つひとつ把握できる聴覚が戻ってきたときに飛び込んできたのは、彼女の一言だった、顔だった。

「いじめんじゃねえッショ」

「独占欲まるだしの巻ちゃんに言われたくないな」

軽く五キロ。苦手な平坦をゆるりと走りながら互いに牽制しあうのは、むろん互いに互いの心の内を理解しているからだろうと思う。
頬をかすめる風は心なしか昨日より熱がある。
少し、意地になってスピードを速めた。

「先に、名前呼ばれた方が今日あいつ送ってく、で」

「巻ちゃん優勢じゃないか、此処は単純にいこう」

先に彼女の元についた方が勝ちだ。
ぐんと二人のスピードが上がるのがわかるのはほぼ同時であった。
あと3キロも無い。半分はすぎ、平地に見えるぽつんとした彼女の姿がきょろきょろと慌てているのが見えた。
見る間に早くなったことが不思議なのだろう。

「東堂」

「なんだ、巻ちゃん」

「インハイ、譲ったんだ。此処は譲れッショ」

「なに馬鹿な事を言っているんだ。本気出していただろう。譲んぞ」

ああ、お前なんかに。
(お前だからこそ)

譲らない。
(可能性を与える。)

end
20140128
20140618加筆修正

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