たまはがね


「ぬしさまはこの毛並がいいとおっしゃる」

ひょこりと顔を出したその表情は、その名とは裏腹に大人びて妖艶で、どこか現実味がない。
しかしながら、この時間になると決まって髪を梳かせと強請る子供の様にも見え、いそいそと私の目の前にはふわりとした髪の毛が腰を下ろすのである。

「うちにはなじめておりますか」

「心地よい空気に前よりも毛並みに艶がでておりましょう?証拠はほれ、目の前に」

「それならばよいのです」

この神は、つい先日我が本丸に宿り立った新入りで私はまだ未熟な審神者である。
大太刀も薙刀も槍も鍛られぬ若輩ものが、ついに先日、初めての太刀をよみがえらせた。
近侍に置かせていた蜂須賀から、ねぎらいの言葉をかけられたのは記憶に新しい。
うちは短刀と脇差と打刀ばかりでなんとか歴史をぎりぎりのラインで守れていただけに過ぎないのだ。
主戦力を新たに手に入れることができ、先程送った政府にむけての報告書へは、いい反応が期待できるだろう。

「戦は毛並みを崩れさせまするが、ぬしさまにこうして梳いていただけるのでしたら、いくらでも赴きましょう」

「大変心強いです」

銀糸がひらりひらりと指先を絡める。
もう夕暮れか、遠征に行かせた二軍がそろそろ帰ってくる頃だろう。
不意に、背を向けているはずの銀糸の持ち主の八重歯がチラリと視線に入り込んだ。

「ぬしさまのお手は大変に柔く他愛なく折れてしまいそうにございまする」

「こ、ぎつ…」

「このぬるま湯は、心地よく清めてくれましょう」

手にもっていた櫛ぽたりと畳に転がり、ぎりっと今までに感じたことのない力が手首を締める。
逆光となっているのに、その輪郭は赤く鬼灯の様に染って視界いっぱいに広がる。

「しかし、温すぎるのもたまったものではありまぬ。ぬしさまは、現状を過信しすぎておりますれば」

われらももうただの鋼ではございませぬ

子供と大人の間の様なその笑む口元は、私にそう告げて胸元へと沈み込む。

end
20150403

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