マリオネットシンドローム


可愛い女の子になりたい。
小さくて、純情で、加護欲をそそる、そんな可愛い女の子に私もいつかなれるのだと信じていた子供の頃。
無情なもので、現実の私は可愛くも小さくも純情でも守りたいと思ってもらえるような人間ではない。

「今日も秀吉秀吉と五月蝿いな半兵衛」

「君も相変わらず突っかかってくるじゃないか」

「戯れ言を、貴様が私が行く先に立つのが悪い」

スラリとした肢体は、私より下手をしたら細く脆く見える。
何故、こんな気持ちにならなければならないのか。
私は鼻を鳴らして彼に背を向けて自室に帰る。
うつりの悪い鏡に自らを映し、美しくない、可愛くない自分に憐れみの笑みを浮かべた。
意地悪く、彼が慕う主に嫉妬する。
彼と同じく軍師として立つ私を誰も女とは見ない。
名ばかりの軍師は、彼からの指示に動くただの兵。
気持ちだけを押し殺し、笑い、傾ける刀に肉片すらつかぬ早さで突き進む。

「なまえ」

「なんだ、秀吉。」

「今日は半兵衛はおらぬぞ」

「いや。違う、違うんだ」

向き合う先に座る秀吉に、私は頭を垂れ首を振り、頭に浮かべた顔を払いのけ否定の言葉を繰り返す。

「無理をするな」

「しておらん、前線へと指示もある」

戦に出る度に、やはり自分は性別を違えて生まれたのだと感じる。
特攻し、体中に傷を作る事をどこの身分ある女が好き好んでするだろう。
勝利をおさめるのは嬉しさとどうしようもない感情を産み、治療の時に影に聞こえるあれはもう女ではないという言葉。
女子の柔肌に傷、ではない。
戦兵の剛肌に証。

「おや、元気みたいだね」

「これを見てよくそんな事が言えるな」

体のあちこちに治療後の痕が残る姿を見て、廊下の真ん中で半兵衛が楽しげに笑う。
こんな女らしからぬ姿を見ないでくれと口に出したならば、きっと彼は君は女だったのかい?と嫌みを返す。
それは冗談だとしても私には辛い。

「すぐ治るだろう」

「次の戦までには」

「それでこそなまえだ」

満足げな半兵衛に対して、じくりと胸元が騒いだ。

「半兵衛…」

「なにかな」

「君は、私をどう思う」

女として、考えてくれているか?

「決まっている。僕の半身だろう。僕が秀吉の右手で君が左手」

「…私は女だ」

「関係ない。君は武士だ」

「違う、私は女として」

「君は、女として秀吉の妻にでもなるつもりだったのかい?」

冗談はよしてくれ。と、半兵衛が笑う。
先ほどまで女を否定される事に怯えていた口が紡いだ言葉が、簡単に彼への希望を形作り脆く崩れた。

「すまない」

「気の弱い君は気持ちが悪い。早く戻ってくれ」

「私もそう思うよ」

もう何も期待も、希望もしない。
女である事も全て捨ててしまおう。

「いっそ女である私など壊れてしまえばいいのにな」

なまじ恋心など
人形にでもなってしまえば、戦の為だけに生きていければ問題ない。
恋心など

誰かがその刃で斬り壊してくれないだろうか


end
20120613

すこっぷ/マリオネットシンドローム
初音ミク

秀吉の事しか考えていない半兵衛と、そんな半兵衛が好きな男勝りな女軍師。
きっと半兵衛は、彼女の気持ちに気付いているけれど一番に考えるのは秀吉による天下統一。
軍師と言ってもほとんど半兵衛の指示で特攻組として戦に挑む。そんな姿が、まるで人形


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