ソラトバズ
「忠勝ー!」
そんな声がして、隣に座る彼が迷い無く飛び立つ。
爆風と言えてしまえるその風に、体が浮きそうになるのをこらえて飛び立った彼を目線で追った。
いいなと羨ましがるのは、家康様が彼をとことん信用しているせいもあるだろう。
私は、あんまり戦に呼んでもらえない。
そもそも、私は忠勝様の整備士としているのだからよほどの長期にならない限り呼ばれない。
あまり体を壊したりされない忠勝様は、毎日体をほぐしに私のところにくる程度だ。
「おかえりなさい」
巨体がふわり、と定位置に降りる。
どうやら、朝方に家康様に呼ばれたのは戦関連ではなかったようで体には傷も汚れも何もない。
「忠勝様、本日の空はいかがでしたか」
手に持った小さな紙に丁寧に筆をしたためる忠勝様は、今日綺麗なため池を見つけたのだと言う。
「左様でございますか。では、今度そちらへ握り飯でも作って向かいましょう」
家康様もさぞお喜びくださいますよ。と言えば、忠勝様からキュイインと音が鳴る。
いっそ私も空を飛び、戦に挑む力があればと何度も考えたがそのたびに忠勝様からやめるようにと制止された。
「忠勝ーなまえー」
「家康様。こちらに御座います」
不意に聞こえてきたのは、主人の呼び声で返事をすればひょこりと顔を出す天真爛漫な笑顔が見えた。
「奥州の伊達から甘味をいただいた。皆で食べよう!」
「ずんだで御座いますか?」
「多分な!まだ包みを開けていないんだが甘味はなまえも好きだろう」
はい。と返事をすればではなまえは、茶を頼むと手を引かれ忠勝様をその場に残してしまう。
「なまえ、忠勝が悩んでおったぞ」
厨まであと2つ角を曲がればつく手前、家康様がぼそりと呟いた。
何か私は、忠勝様を悩ませてしまうような事をしてしまったのだろうかと頭を捻るが何も思い浮かばない。
「お主、ワシが忠勝を呼んだ時に随分と悲しそうな顔をするそうだ」
「私が…?」
「ワシはお主が忠勝と居る時しか知らんからな。しかし今はなんとなくわかる」
確信をつかむ様に、にんまりと笑顔のまま家康様はずんずんと先に進む。
「さっきのなまえを連れて行った時の忠勝の顔を見たか?戦国最強があんな子犬のような表情を浮かべて!」
あんなもの他国には絶対見せられん!とくるりと体を反転させて私を指差す家康様の言いたい事はなんとなくだが理解できる。
私もその忠勝様と同じような表情になるのだろう。
なんという事か、言われて頬が熱くなる感覚に顔を伏せた。
「空を飛ぶ忠勝は羨ましいと思わんか」
「…」
「ワシは羨ましい!だから忠勝に乗って戦に行くし暇があればあちこち見に行く!」
ずるいじゃないか、独り占めなんか。そう続ける家康様は、ぽんと私の頭に手を置く。
「しかし、忠勝はなまえがおらんとすぐ飛べも動きもできなくなる。みんなできる事なんかバラバラで、誰かがいないと出来る事もできんようになる」
「はい」
「戦に出たいという願いは忠勝から伝わっている。おいていかれるのは、さぞ悔しいだろう。しかし、ワシも忠勝もお主が此処におらんと満足に戦えん」
お主のようにワシもできたらいいんだがな。と珍しい困り顔の家康様は、さあ茶の準備だ!と厨の中に姿を消した。
私にできる事だけをするだけで、彼らは全力を出せるという。
ばらばらな事をしていても目指す先は一つだけなのだ。
家康様による天下を私も見たい。
「待たせたな忠勝!しかし喜べ!やはりずんだ餅だったぞ!」
湯飲み三つと箸の三膳のった盆を持ち、ずんだ餅の入った重箱を高らかとあげる家康様の後ろをついていく。
座布団に腰をおろしその場に湯飲みを並べれば各々が箸をとった。
家康様の前に私が食べ何も問題なければ家康様も箸をすすめ、最後に忠勝様が口に放り込む。
甘いずんだ餡は、小豆よりもさっぱりとしていて食べやすい。
「やはり誰かと食べるのはいいな」
「はい、とても。とても美味しゅうございます」
払拭された肩の荷がよほど窮屈だったのか、自然と綻ぶ笑みに向けて忠勝様が頭を撫でてくれる。
大きな手のひらですっぽりと頭を覆われた隙間から、忠勝様が目を細めたのがわかった。
end
20120614
20120615(0:35) 一部修正
トラボルタP/ソラトバズ
鏡音リン(巡音ルカ)
忠勝夢のつもりなのですが、家康が出張ってしまいました。
家康の天下を一番そばで手伝え力のある忠勝が羨ましく憧れのあるヒロイン。
しかし、主君に諭されて自分なりの家康天下統一への手助けができると気づく。
ソラトバズを憧れから自分のやるべき事に気づくという形のニュアンスで捉えました。
東軍繋がりという事で、伊達からずんだ餅を抜粋させていただきました。[
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