紅蓮の弓矢
「帰ってこなくともよい」
それは、彼がいつも私に言う最後の言葉だった。
「敵方先攻!きます!」
城壁に並ぶ兵を采配を持って動かす姿は、凛々しく美しい。
その神々しさ故か、彼に無碍な扱いをうけようとも仕えている者は多く、私もそのうちの一人に当たる。
口布をゆっくりと持ち上げて硝煙で喉をつぶされる前に防御策をとり、彼の声での合図をひたすらに待った。
「なまえ行け、帰ってこなくともよい」
最後まで言葉が紡がれた瞬間、城壁を飛び越えて敵陣に降り立つ。
彼の光を受けて燃える炎、それが私だ。
炎を纏い、短剣で無造作に湧く足軽を踏み越えていけば、片隅に逃げ遅れたのであろう民が草陰に隠れているのが見えた。
きっと目があってしまった事はあちらもわかったのだろう、もっと奥へ奥へとかけて行くのを見送る。
昔は私もアレだった。
弱すぎるが故に何もできずに両親も兄弟も失い、下衆の生き様も垣間見た。
今思い出しても吐き気を覚えるその声が頭を通過し、喉奥に絡まったタンを口に含んで口布を外して吐き出した。
目前に見えた敵陣営に目を向け、気持ちの悪い血の匂いに眉間にはくっきりと皺を寄せる。
「毛利元就が一の矢。その首、貰い受け候」
私は、本当に弱かった。
もう少しで死ぬと思った瞬間に、婆娑羅の能力に開花し襲い掛かってきた野党共を消し屑にしたのは奇跡に近かっただろう。
同時に、何故もう少し早く力があるとわかっていなかったのかと後悔もした。
そうすれば、家族はきっと今も生きていただろう。
「…帰ったか、首は如何した」
「此処に」
陣にどかりと座った元就様は、表情の一つもかえずに首を雑兵に処理させゆっくりと私に近づいてくる。
細くきれいな指は、あの頃から何もかわらない。
「中国の繁栄はそなたの功績で未来永劫続くであろう」
「ありがたきに」
「なまえ、」
一人になった私を拾い上げてくれた元就様は、彼が信仰してやまない日輪そのものである。
覚悟も、余裕も、力も何もかも無いと思い込んでいた私は元就様に囲っていただいた当初屈辱にも似た感情で彼を憎んだ。
しかしどうして、側に仕えられるまでに成長して謀反を企てていたにも関わらずその姿は有能な国主であった。
民草には、兵には捨て駒と投げ捨ててはいるが、これほどまでに国の事を自分よりも優先して過ごしている人も少ないだろう。
彼の中の優先順位の中で、私がいったいどの位置にいるかもわからない。
しかし、私を拾ってくれた元就様の為であればこの命尽きるまで尽くして果てたい、そう今は願ってやまない。
たとえ、放たれれば帰って来ることの無い元就様の矢になろうとも帰ってきたいと思ってしまう呪縛は黄昏が如く儚い。
「ように、帰った。次に備えよ」
だって、彼は帰ってきた矢一本ごときに優しい慈悲をかけてくださるのだ。
end
20130606Linked Horizon/紅蓮の弓矢
アニメ、進撃の巨人OPですが、あえてbsrで一本。
Twitterで、こちらの歌詞は一度放たれたらかえってこれない矢を調査兵団にたとえたものでは?という見解がありそれに感化されて作成いたしました。
盲目的に元就を守りたい願うヒロイン(この場合男主でも問題ないですね)
と、毎回言葉をかける元就。
主従としては、こういうのもありかなと思います。
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