▼弟と祖父と兄
パーパの付き添いに行ってくるね。と、唯一の弟が先日の良く晴れた日に日本に行った。
まさかそれを僕だけが知っていたなんて事知らなかったし、それでも僕だけがそれを知っていた事に優越感がないと言えばウソになる。
血としてはほとんどニホンジンである僕らは、国籍としてはイタリアである。
日系イタリア人として生活して20数年の中で、マンマだって日本に行ったことは1度しかないと言っていた。
それでも日本語を多用して生活していたのは、ノンノが生粋の日本好きで親友と名の付く人物がニホンジンであった事が原因だと言っても過言ではない。
「は?それ俺だろ?」
僕たちはむつごだ。
六人兄弟だけれど全員同い年で、同じ日に生まれた。
全員が成人男性になれたなんて奇跡に近いし、全員が家業をそれぞれ担って生活している。
イタリアンマフィア、なんて、僕はそれだ。
次期ボス争いは、本来兄弟の中で行われるはずだろうが、僕らは自然となんの違和感もなく長男にその地位を譲ったのはボスの地位なんてなくても、僕らはいつでも平等であったからだ。
いつもはのらりくらりと、しかし身についたカリスマ性が誰よりも強い長男は、いつもと全く違う表情でノンノをにらみつける。
嫌な予感がした。
カラマツ兄さんが、肩をつかんで。
チョロマツ兄さんがノンノの前に立って二人の間に壁をつくる。
身についたその動作は、おそ松兄さんから殺気がみえたからとられたにほかならない。
ノンノは、ただ、おめでたい事を言っただけだ。
「どうしたんだいオソマツ」
「どうしたじゃねえ。それは俺の役目だろ」
「じじいの昔なじみとの約束を果たすのがか?」
「関係ない。まず、最初は、俺、だろう」
ノンノは、自然と僕たちが揃ってしまう広めの応接間に1人でやってきた。
それはそれは嬉しそうに笑みを携えていたから、別段悪い事は何もないと思っていた僕たちは、ノンノどうしたのと問いかけるイチマツ兄さんの視線と同じようにノンノを見やった。
続く言葉に反応が違ったのはオソマツ兄さんだけ。
ただ、お前たちにもパートナーが必要だろうとつぶやいただけ。
最初、意味が解らなかった。
でもきっと兄弟の誰よりも先に僕がその意味を理解した。
日本に行った弟の行った先なんて、連れていかれる先なんて、わざわざひとりでパーパについていかされる場所なんて、日本好きのノンノの親友は誰だっけ?
「オソマツ。だからお前に、親友の孫はやれんよ」
ノンノは、前に立つチョロマツ兄さんのシャツの襟をそのしわがれた指先でなおして、部屋を出ていった。
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20161001
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