▼私の今と、兄と家
松野の六つ子といえば、誕生した時にはちょっとニュースにもなった有名人だったという。
初産の母さんも新婚気分だった父さんもよく産む事を決めたと思うし、きっと生活的に大変なことなど目に見えていただろう。
その六つ子が生まれた数年後奇しくも同じ日に、松野家に妹という普通の女の子が誕生した。
それが私である。
兄たちは、いままで同い年の男兄弟しかいなかったせいでいやというほど妹を構い倒し、両親も一人娘とあってこれでもかというほど甘やかした。
しかしながら、その妹というのがとてつもなく何事にも達観しているものだから周囲はとても不思議がったことだろう。
それもそうだ。
私は、いつの間にかこの家に妹として誕生しただけの成人済みの女だったのだから。
そんな私もすくすくとそれなりに育ちまた社会人になった。
大学に進学しても就職などないだろうと、高校卒業から働いている。
一般的な中小企業の普通の事務職員。
給与の手取りはカッツカツではあるが、実家暮らしの私にはそんなもんだろうと思う。
「あ」
金曜日。仕事終わりのアフターファイブ。
残念ながらまだ未成年である私は、きっちりしっかりがモットーの社長のおかげで飲み会などには一切参加しなくてもいいと許可をもらってそそくさと帰っている。
のんびり帰ろうと自転車で河川敷を走っていれば、夕暮れの川辺で兄を見かけて声をかけた。
「十四松兄さーん。帰らないのー?」
「あ!奈緒だ!仕事おつかれ様ッスル!」
五番目の兄は、どこで何をしていたのかどろどろで笑いながら私の自転車の荷台をグイッと押して走り出す。
ペダルを回すことなく進む感覚は不思議と楽しく、きゃあきゃあと子供のようにはしゃいでそのまま家まで帰った。
最初にいったとおり、六つ子の妹となった私には、六人の兄がいる。
世間はどうかと言うが、この六人が六人とも無職だというのだから両親の面目丸つぶれ。
多くない父の給与、気持ち程度の母のパート、少ない私の給与でもっていると言っても過言ではないこの家の財政を、兄六人は本当に何もわかっていないだろう。
「ただいまー!」
「しーあーるただいまー!」
ドアを開けば母さんの作った晩御飯のにおいがするりと鼻に通っていく。
今日は、揚げ物のにおいがする。
丁度お手洗いにでも降りてきていたのだろう、末のトド松兄さんが、私と十四松兄さんにおかえりと笑いかけた。
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20160526
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