前田慶次の羽根の予備お願い


「あ、すみません」

夕刻ロケの日、今日も今日とて仕事はあって。
先週から撮影に入ったドラマの小道具担当として任命されてわくわくしていたものの、なんとも時代重視の小道具たちの準備は大変だった。
事務所に常駐する後輩から、先日監督より新たに追加依頼のあった手持ちの灯りが見つからずもう作った方が早いと言われて撮影所の隅でせかせかと和紙とノリを駆使している最中。
不意に話しかけられた方を見ればすでに衣装を身に着けた前田慶次の姿がそこにあった。

「美術さん、ですよね?ちょっと頭の羽根が折れちゃって修復できないかなって」

「あー、あ、なるほど」

「すみません、どっかぶつけたみたいなんですよね」

あはは、と役柄と変わらぬ笑みを浮かべる彼は手に持った羽根を私に差し出す。
羽根は根元の部分が少し折れているぐらいでこれならば問題なく修復は可能だろう。
手元に羽根を受け取りつつ顔を上げれば不安そうな整った顔に目線がいく。

「一応、監督とメイクさんに言ってくださいね。勝手にやると問題になってしまうので」

「それは大丈夫です!もう言ってきました!」

ぴん、と背筋が伸びれば目線がぐんと離れていく。
手元に道具もあるしすぐに修復して返してしまおう、とそばにあった箱馬に前田さんを促した。

「すぐできるのでそこで待っててください」

言って、座るかも確認せずに彼に背中を向けて地べたに座り込む。
マスキングテープと速乾接着剤と絵具で見目を綺麗に整えていけばしばらくはもつだろう。
あとは乾かせばと羽根を片手に着色したばかりの絵の具をうちわで乾かしていれば小さく賞賛の声があがった。

「すっげ。手先器用ですね」

「ありがとうございます」

「俺こういうの直したりとか全然できないから、ドラマの現場とかセットも普段と違って感動しちゃってて」

「前田さん歌手ですもんね。でも、音楽番組のセットも派手でしょう」

「確かに」

でも、違ってて楽しいという前田さんに乾ききった羽根を手渡せば自分で頭に挿して私を見てくる。
絶妙な位置に挿しこまれた羽根を見て大丈夫だと告げればにかりと笑って感謝の言葉と共に去っていった。
なんとも笑顔のまぶしい人だったが、あの羽根も台本を読む限り動きの派手は彼の役であれば後数回は破損させるだろう。
少しばかりめんどくさいと思いつつ携帯電話を手に取って事務所に電話をかけた。

前田慶次の羽根の予備お願い

20130315

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