one
モテる。
それは、一般的に異性に好意を寄せられやすいという事と一言で伝えられる言葉だろう。
その範囲内におさまる人物など一握りであり、皆にあるというモテ期など本当にあるのかも信用しきれない。
なまえは、自分にそんな言葉が似合う日がくるなどとも到底思っていない。
「ねえ、ねえってば」
無言を決め込め。と胸元に通学用のバックを抱えて頭を下げたままなまえは生徒用玄関まで歩き進める。
放課後の夕日と同じように降りかかる視線は、明るいオレンジ色の髪の毛を地毛だと言い張る容姿端麗な人物に対してだろう。
「仲良くしよ?ね?」
へらりと愛想のいい笑みを向けながら彼は彼女の行く手をさえぎる。
向こうの方で彼を呼ぶ、佐助ーという高く間延びした声がする。
呼ばれているのだから早く行けばいいのに、そう思ってもなまえの口から言葉はつむがれない。
引っ込み思案で、赤面症。
無口で、勤勉。
それが彼女の性格であり自他共に認める地味な見た目が生み出したコミュニケーション障害の元だった。
がりがりと爪をたてて前髪と額を何度もなでる彼女を見て、彼は満面の笑みを向けている。
「みょうじさんと仲良くなりたいんだ?あ、俺様B組の猿飛だけど知ってる?」
小さく頷いた彼女に猿飛はさらに笑顔を深くする。。
どんな表情をしているかは彼女からは一切見えないものの、周囲の人物から見ればそれはとてもとても不思議な光景である。
不意に、彼にくるりと背中を向けて彼女が階段に向かって駆け出した。
あっと声を猿飛が出すもののそれ以上追いかけようとする事はなく、ひらりと揺れて消える髪だけを目線が追いかける。
「佐助ー、みょうじさんと知り合いだったの?」
先ほど彼を呼んだ人物だろう。
校則の緩いと言われている中でも注意されそうな見た目は、煌びやかとプラスの言葉で表しておくとする。
彼にぴたりと寄り添う女は、なまえを馬鹿にしてからかうかの様に口端をあげた。
「んー、うん。すっごくかわいいでしょ、彼女」
「は?」
「なまえちゃん。俺様ちょータイプなの」
と言葉を続ける猿飛は、周りを取り囲む女生徒に向かって指先を唇に添えこれでもかという程のいい笑顔を意味深に振りまくのだった。
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20120723
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