ベランダでカシス
仕事の疲れは溜まりにたまっていた。
しかしそれもあと1ヶ月もすれば開放される。
辞めさせろ、辞めさせろと数ヶ月社長と言い合いやっともぎ取った退職。
特殊な職場だとはいえ、やはり体力も何もかも女の私は弱かった。
半年ぐらいは適当にアルバイトをしながらだらだらと過ごしたい、と両親にも言い放ったのはこないだ帰省で帰った時だ。
いつも帰省の度に職場の悪口ばかりこぼしていた私を知っているせいか、ちゃんと期間を決めたら再就職先を探しなさいよとすんなり許してもらえた。
彼氏でもいれば結婚して身を固めるなどあっただろうが、一年も前に学生と浮気という最悪の場面を街中で目撃して破局に終わる。
まあ、私も23なんかで結婚して家庭に収まる気なんてさらさらなかったのだから構わないのだが
とにかく、私にあるのはたまりにたまった貯金、クリアできていないゲームの山が残る事になる。
「ビールーっ」
長くなった前髪をシュシュであげたまま風呂上がりのアルコール摂取が日課になっている私は、冷蔵庫の買い溜められた缶が並ぶ前にしゃがみ込んだ。
ビールもあるが、今日は疲れているし糖分摂取も含めてカクテルもいい。
当初の予定とはかわり、ビールの奥にあったカシスオレンジの缶を引っ張り出す。
今年は花見にも行く暇がなかったからと、気分でベランダに出て満月なのだろう真ん丸のそれを眺めた。
「いい風だねえーっん、うまい」
一人暮らしをはじめてから増えた独り言をつぶやきつつちらりと隣人の方を見れば明るさは無い。
そういえば、こないだ引っ越して出て行った気がする。
夜中に歌うし洗濯するし迷惑だったから良かったなんて思いつつグビリ、とまた一口缶から冷たいそれを喉に流し込む。
ガンッ!
思わず肩を震わせてしまうほど大きく響いた何かが何かにぶつかるような音に、ベランダから室内に入る。
10畳ワンルームの私の部屋に、変化はない。
ユニットバスか?トイレに何かいるなど恐ろしいが確認しないとまた怖い。
恐る恐る玄関を入ってすぐのドアを開くが、電気をつけても何も変化はなかった。
気のせいか?と首を傾げていれば、玄関のドアの向こうから何かを引きずる音がする。
ホラーだ。
さっきまで低いアルコールの気持ちよさに酔っていた気分も引いてしまう。
大嫌いなホラー映画にありそうな、覗き穴を見たら恐ろしい情景を想像しつつ怖いもの見たさで覗き込む。
「よっ…ぱらい?」
ぐでんと誰かが私の部屋の前で寝ているようにみえる。
しかし、隣人はいないしこのマンションは一つの階に二部屋しかないから階を間違えているのかもしれない。
しぶしぶ、ドアを開けて話しかけようとした。
開けた先の人は、どう見ても傷だらけ
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20120903
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