投身自殺なら海へどうぞ
ドアを開けたらそこはスプラッタでした。とまではいかなかったが、酷い有様に変わりなかった。
頭と体の各所から怪我をしているらしく、意識はない。
綺麗な顔をした赤毛の青年のようだが、ほったらかすなどできるわけがない。
どうやら最初に聞いたガンッは、頭を私の部屋のドアにぶつけた音らしくドアには髪と血のえげつないアートが刻まれていた。
とりあえず濡れたタオルで彼の顔や髪を軽く拭く。
次に救急車を呼ぼうと部屋に足を向けた時、ピッと何かが首もとに添えられた。
なんだなんだ、と私はそんな余裕の言葉を出す暇は無い。
刃物だ、そうかこの青年を伸した奴が近くにいるかもしれないという事を一切考えていなかった。
ゆっくり刃物を突きつけている人物に目線を寄せる。
「静かにしてろ。黙ってたら俺様も危害は加えないし、さ?」
予想外である。
どんなごつい血走った目の奴が来やがったと思っていたら、刃物を向けているのは先ほどまでぐったりしていた青年。
どういう事だ?とまったく声がでない。
今まで変質者を見かけた事はあったが、こんな状況にはもちろん陥った事はなかった。
青年の言う通り、素直に頷いていれば開いていた私の家に入るよう促される。
「此処はどこ?で、アンタ誰?」
お気に入りの赤い独り掛けソファに座らされ、青年はロフトベッドに腰を下ろす。
見下ろされている、ビリビリと何かを感じるがこの威圧感はなんなのだろう。
「私の家です。私の名前は」
「名前なんか聞いてない。どこの領地の…いや、身なりからして南蛮の出?」
「なんばん?南蛮?」
「南蛮わかんないの?」
「いや、南蛮じゃないです日本です。生まれは四国」
南蛮と言えばポルトガルやスペインの事だろう。
私みたいな日本人を見てどうして南蛮生まれなどと言えるのか思わず首を傾げれば、青年は眉間に皺を寄せて私を睨む。
思わずピシリと背筋を伸ばした。
「四国?なら鬼の旦那んとこ?」
「お、鬼?四国でだすなら狸とかじゃ」
某有名狸映画を思い出しながら四国で鬼なんて聞いた事ないと眉を寄せる。
鬼と言えば中国地方だし従弟がいてこないだきびだんごをお土産にもらった記憶があった、おいしかった。
とにかく異論を答えてみれば、青年は少し悲しげな顔をして頭を抱えた。
「どうなってんの…」
「あの、お兄さん?」
「なに?」
「怪我の方は?」
「別に、平気だけど」
どうやら救急車は必要無いらしく、一安心。
不思議そうな青年をじっくりと見ては実に珍しい格好をしている。
サバイバルゲームでも趣味なのだろうか。
全身迷彩の服など今時流行はしない。
「お兄さん、名前は?」
「…言う必要はない」
一刀両断する様に言い放たれ少し残念に思う。
私も名前は言えていないしな、なんて言葉を飲み込みつつ静かに青年の次の行動を待った。
「…うぇ!?」
目線の先に入ったのは、先ほどまで悩む姿を見せていた青年に違いなく。
ベランダから身を乗り出す様子はまさに身投げ。
何故!何故私の家から身投げ!?
慌ててソファから立ち上がり青年の腰にまとわりつく。
「ちょっと!離して!」
「離すか!身投げなんかされちゃ適わない!」
「身投げなんかしないし!」
身投げ以外今の行動は考えられない為信じない。
理由は何か知らないが、死ぬなら誰の迷惑にもならない死に方にしてくれ!嘆くように言葉を続けては青年は力を抜いてベランダから部屋へ体を反転させ私に向き直る。
話してくれるか、にっこりと笑いかけてくる青年に私は無意識に笑みを返し腕をといた。
そこから私、記憶がありません。
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20120905
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