作ってと
ねえ、おなかすいた
何か食ってねとけよい
私今チーズ的なものが食べたい
コンビニいけよい
あったかいオーブンで焼いた系のじゃがいものとマカロニの入ったチーズ的なモノが食べたい
ファミレス行ってこい
「マルコの作ったグラタン食べたい」
唐突に、携帯ではなく直接的な音声が耳に届く。
同じ室内にいるにも拘わらずわざわざ遠回しに何かを訴えかけてくる時は、俺になにかしてほしい時だと気付いたのは付き合っていつごろからだっただろうか。
先程まで片手に持っていた携帯電話を捨て置き、ばたんばたんと布団を叩きながらグラタンと繰り返すその姿は、どうしようもない。
いい意味ではなく、そのまま、どうしたらいいのかわからない。という意味である。
孤児院時代にサッチに作り方を教わった簡単なグラタンは、なまえの舌にぴたりとハマったらしく時たまこうしてねだってくるのだが、現在持ち帰った仕事を終わらせなければいけないし、作り始めたら一時間近くは仕事に戻る事はないだろう。
現実的と言わないでもらいたい。
これは、実際自分の首を絞めてくる大問題なのだ。
「今日は、なまえが作ってくれんだろ?彼氏様のこの仕事に埋もれた姿が見えないのかい?」
「私の口はもうグラタンスタンバってんだけど」
「甘えても今日は作らねえよい」
「けええええちいいいい!」
もう何がしないのか、布団を体に巻きつけたままころころと転がるその姿は、ミノムシかはたまたイモムシか。
仕方ないと腰を上げて冷蔵庫から皮すら向いていない人参の切れ端を差し出すと、じゃがいもって言ったの!と人参を乱暴に奪い取ると抱え込むように布団の中にもぐりこむ。
「ロールキャベツ作ってくれるって言うから材料は準備してんだよい」
「来るまでの電車の中で親子連れのシチュートーク聞いてたらグラタン食べたくなった、ていうかぶっちゃけめっちゃめんどくさい」
「グラタンの話聞いたんじゃねえのかよい。あともうちょっと本音隠すようにしろって」
「かわいい楊枝も買ってきたけど、もうグラタンにいっぱい刺しとけばいいと思ってる。ラピュタパンでもいい、朝ご飯それでいこう」
「全部やらせる気だな」
でへへと布団から顔を出して甘えた笑みを浮かべるなまえを見て、ああもうと目元に手を添えて溜息を吐いた。
朝、早く起きてやろう。
わかった、わかってる。
俺はこいつにめっぽう甘い。
チンと高く音が鳴って、俺よりも先にオーブンの前にいたなまえが鍋つかみで大きいグラタン皿をテーブルに運んでくる。
ほかほかと湯気が立ち、かけていたメガネが曇っていて視界が悪いのだろう。
少しふらつくなまえは、テーブルにグラタン皿を置いてすぐその場に座り込む。
洗い物が大変だからと二人で一皿。
いただきますと手を合わせて、あつあつの一口を含んだなまえは、俺の顔を見て満面の笑みを浮かべるのだ。
「マルコのグラタンが一番スキ」
ああ、これだから、どうしようもなく。
(うまいかい?)
(おいしい)
(明日は、ロールキャベツな)
(善処してやらんこともない)
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20131207
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