桜と月と桃


夜桜などいつぶりに見るだろう。
つい先日まで寒い寒いと布団に丸まって部屋を締め切っていたのが嘘のように、今は月明かりの下で外を眺めるのも悪くはない。
昼間のように暖かくは無いが、とても心地よい風が髪紐を解いた髪を揺らす。

「タカ丸…さん?」

不意に、少し離れた場所から声がして目線を向けてみれば見知った顔が少し頬を染めてこちらに寄ってくる。
くのたま長屋と忍たま長屋の間にあるこの場所は、ある意味男女の憩いの場であろう。
彼女はストンと隣に座り込んで桜を見上げた。

「夜桜の季節だったんですね」

「うん…いいよねえ、月明かりの桃色ってとっても綺麗だと思うんだ」

「そうですね」

ほう、とどちらかから自然とため息が漏れ出す。
ちらりと彼女に目線を向ければ、綺麗な黒髪は湯浴みしてすぐなのか少し湿っているようだ。
普段ならば、早く乾かしてしまわないとと野晒しの髪を手拭いで拭うところだがそんな雰囲気でもない。
しばしのこんなおっとりとした時間がたまらなく好きだ。

「なまえちゃんの髪が夜空で、桜の桃色がくのたまの装束だね。だから綺麗にはえるのかも」

「ならタカ丸さんの髪が月で、忍たま四年の紫が桜と夜の混ざり合った色です」

「嬉しいけど無理やりすぎない?」

「そうでしょうか」

あっけらかんと返してくる彼女の髪をさらりと撫でる。

「明日もまた見ようか」

「では、明日実習で町へ出ますのでお団子でもお土産に」

「じゃあ僕は、お茶かな」

ええ。楽しみにしてますね、と柔らかく笑む彼女に少しだけ近づき座り直す。
肩を寄せる二人を誰も離す事はない。
ただ満月と満開の桜だけが、二人に大きく影を重ねた。


20120419

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