あの騒動の後でマリアはシエルにこっぴどく叱られた。
「姉さんは今後一切一人で外出禁止だ。大学へもセバスチャンの馬車で僕も一緒に行く」
「え〜!嫌よ!そんなの」
「『嫌』じゃない。この間だってグレルが居なかったらどうなって居たか」
「グレルさんの死亡予定者リストが役立ちましたね…これからは私がマリア様の送り迎えをさせていただきますので」
一礼するセバスチャン。
「嫌よ!大学位一人で行けるわ」
「ダメだ」
それから毎日マリアはセバスチャンとシエルと大学へ向かい、帰って来た。
「マリアの執事とてもかっこいいわ」
大学の同級生がセバスチャンを見てかっこいいと騒ぐ。
「そうかしら」
悪魔なんてかっこよくないわ。
毎日の送り迎えは退屈で窮屈だった。
そんな日々が続いた帰り。
馬車に揺られるシエルとマリア。
橋に人だかりが出来ている。
「セバスチャン、何なんだ?」
「何でしょうね」
馬車が止まる。
「子供が橋から落ちて溺れてる」
マリアは馬車から降りると何のためらいもなく橋から川へ飛び込む。
「姉さん!」
正義感の強い姉。
マリアは泳いで子供を助けた。
辺りには拍手が響く。
ファントムハイヴ邸へ戻ると着替え、タオルで濡れた髪を拭いて自分で紅茶を淹れて飲むマリア。
シエルはため息をつく。
「姉さん、川に飛び込んだり無茶はしないでくれ」
「無茶じゃないわよ。泳ぎは得意だし。それに子供が溺れてるのよ。助けなきゃ」
しばらくするとソーマとアグニがやってきた。
「シエル、話って何だ?」
「姉さん、話がある」
シエル、ソーマ、マリアは椅子に座り、セバスチャンとアグニは後ろに立っている。
「突然だが、ソーマと姉さん、結婚したらどうだ?歳も近いし」
「シエル!マリアも俺にとって妹だぞ」
「私もソーマは年上だけど弟みたいにしか思えないわ」
その日の夜。
シエルの部屋にマリアが居た。
「シエル、今日は何を言い出すのかと思ったわ」
「姉さん、ソーマは悪い奴じゃないしインドも好きだろ?真剣に考えてくれ」
「嫌よ」
「だったら他の縁談の話…」
シエルの唇を人差し指で抑える。
「私は結婚しない」
「…なんて事があったのよ。シエルまで結婚したらどうかなんて言うのよ?」
「ヒッヒッ…お嬢ちゃんは好きな人とか居ないのかい?」
「もう!アンダーテイカーまで!居ないって前にも確か言ったわよ。結婚なんか絶対しないわ。第一恋とか愛は人を狂わすじゃない。馬鹿馬鹿しい」
「そうかなぁ?…確かに恋や愛は人を狂わしたりするかもしれないけど、楽しかったり幸せな事だってあるんじゃないかなぁ?」
「アンダーテイカーは、誰かを愛した事があるの?」
「ヒッヒッヒッ…どうかなぁ…」
アンダーテイカーはそう言うと、遺髪入れに触れる。
バタンとドアが開く。
「姉さん、帰るぞ」
シエルとセバスチャンが迎えに来た。
帰りの馬車に揺られながらマリアは絶対に結婚はしない。
愛とか恋とかは非常に馬鹿馬鹿しく時には人を狂わす怖いものだと強く思った。
私は恋なんて絶対にしない。
なるべくなら、姉さんにはファントムハイヴから離れて欲しい。
僕が女王の番犬として動く限り、姉さんには危ない思いをさせる。
姉さんには陽のあたる場所で笑っいて欲しい。
…シエルの脳裏に3年前の悲劇がよぎる。
姉さんだけは僕が守らないと。
ソーマの所ならアグニも居るし、一番安全だろうと思ったがなかなか上手くは行かない…
姉さんは自分を貫くし、頑固だから。
マリアを見つめながら考えるシエル。
「シエル、私の顔に何かついてる?」
「いや」
「また変な事考えてたでしょ?シエル!私は誰とも結婚しないんだからね!恋なんて興味ないし!」
大きな声でマリアは言った。
姉さんの意志は固い。
シエルはため息をついた。