38/壁

「頼みます、姉さん」

「任せて!行きましょう、セバスチャン」

マリアはセバスチャンと馬車に乗り込んだ。


数日前だった。
シエルが土地を探していて、広い自然がいいとの事だったのでちょうどいい場所があるとマリアとセバスチャンで見に行く事にした。
シエルも一緒に行きましょう、とマリアは誘ったが『用事がある』、とあっさり断られた。

本当は用事なんてない事はマリアもセバスチャンも知っているのだった。



「素敵よ!セバスチャン!」
マリアは瞳をキラキラと輝かせながら赤いストライプの入ったスーツを来てカンカン帽を被ったセバスチャンを眺めていた。

「派手すぎませんかね?」

「そんな事ないわよ!凄く素敵、私が選んだんだもの」

「はぁ…そうですね」

マリアに圧倒されたセバスチャン。

「ところでそちらのバスケットは?お持ち致しますよ」

「え!いいの自分で持つ!」


大事そうに大きめのバスケットを持って時折タオルをめくって何か確認しているようだった。



馬車から降りてセバスチャンにエスコートされて列車に乗った。
向かい合わせに座る二人。



「私も赤い花柄のドレスだからお揃いね!」



とびきりの笑顔で本当に心から嬉しさが溢れているマリア。
セバスチャンは可愛いと思いつつ、つい意地悪をしたくなってしまう。


「花柄とストライプ、どこがお揃いなんですか?」

「赤!色がお揃いなのっ!なんで分からないないのよ、もう」


ムキになったマリアを見てセバスチャンはクスクスと笑った。


「今のわざとね!もうっ!」


お互い笑った。相思相愛なんだと、お互い解って居る。
いつの間にか居心地がいい。



列車を乗り継いで


昔も二人で乗ったぁとマリアは思い出す。




列車から降りて、しばらく歩く。


そして目に入った光景。
元々の自然の状態を生かし、美しく整備場され、真っ赤な薔薇がたくさん咲いて居た。


「これって…」


目の前に真紅が拡がる。


「誰も所有していらっしゃらない土地でしたしマリア様のお気に入りの場所でしたので整備させていただきました」

「凄い…綺麗…ありがとう」


薔薇のそばに行くとマリアはバスケットから大事そうに黒猫を抱き抱えた。


「彼女を連れてきて下さったのですか」

「そうよ。猫ちゃんにも見せたかったんだ、ずっと猫ちゃんには貴方の話を聞いてもらってたし」

にゃー、と黒猫は鳴いてセバスチャンに飛び付いた。


黒猫にうっとりするセバスチャンをマリアは微笑みながら眺めている。


前に二人でここに来た時はただの伯爵の執事で、私はその伯爵の姉。
私は小さくて彼を見上げて見ていた。
とにかく嫌いで嫌いで…

でも今は違う。結婚を誓った婚約者なのだ。


私も背も伸びたし大人になった。



ぴょん、とセバスチャンの腕から黒猫が肩に乗る。



「本当に綺麗で可愛いですよ。身長が高めなのも私と似合いますよ」


とマリアに近付いてくる。

優しく抱き寄せて、顔を近付ける。



「!だ、だめよ!!」


キスをされそうになって慌ててセバスチャンから離れたマリア


「ファーストキスは結婚式に取っておくの!」

「エリザベス様かグレルさんの恋愛小説の影響ですか?」


クスクスとセバスチャンは笑う。

「バカにしないでよ!」

「バカにしておりませんよ。とても可愛いレディですよ、では大切に取っておきましょうね」


軽く額にキスをされた。



その後はサンドイッチを食べて、紅茶を飲んで黒猫と遊んだり薔薇を見たり兎やリスを見て満喫をした。



「風が冷たくなります、帰りますよ」

「うん」




帰りの列車の中。



「マリア様」

「ねぇセバスチャン?思ったんだけど婚約者に様はおかしくない?」

「…ではマリアさん」

「なんか堅苦しい!」

「マリア」

「マリアって呼んでもらうのがいいかな」

「ではこれからはマリアで」

「ですって、猫ちゃん」


バスケットからひょっこり顔を出す黒猫。



列車から降りて馬車に乗り家路に向かおうとしたところにマリアがセバスチャンの腕を組んで来た。

「ちょっとだけ歩いていいでしょ?ふふ…」

随分上機嫌なマリア。

「少しだけ、ですよ」



商店街を歩いてふとショーウインドウに映るセバスチャンとマリア


「ねぇ、私たち恋人ね」

「そうですね」


セバスチャンはバスケットを持ちながら愛しいマリアを優しく見つめ、マリアは笑顔でセバスチャンと黒猫に語りかける。
それはまるで映画のワンシーンのように美しい。









「おい!」


目の前にはフランシスが立っていた。


「フ、フランシス叔母様!!」


「どういう事か説明しろ!」


「私たち婚約したのよ!」


「いやら執事、お前がたぶらかしたのか?」

「いえ、フランシス様…これは」


フランシスは二人を引き離した。


「婚約なんて絶対に許さないぞ!」


マリアはそのままフランシスの馬車に載せられた。


「セバスチャン!!」
マリアが叫んだ。


セバスチャンがどんどん遠くなって行く。



一瞬の出来事だった。




「困りましたね…」

セバスチャンがぽつりと呟くとバスケットから黒猫がセバスチャンの肩に乗った。

「にゃー」

「大丈夫ですよ。マリアは連れ戻しますから」

「にゃー」