不良全盛期、それがおそらく自分の今生きている時代なんだろう。
渋谷のあまり治安のよろしくない学校へ通う男子中学生、今牛なまえは周りを囲むガラの悪い男達をぐるりと見回してそんな事を思う。

なまえは幼い頃から、よく絡まれる性質であった。
母親譲りの美人顔に白い肌、食べても鍛えても然程見た目に表れない華奢な体つき。さらには生まれつき色素の薄い髪。
そこまで揃ってしまえば目立つなという方が無理というもので、今のようにこうして不良としてカテゴライズされるであろう人種に絡まれるなど日常茶飯事だ。

「……どれも前にぶっ飛ばしたことあるジャガイモな気がするけど、何の用?」

加えて、なまえは気が強く、口が悪かった。
なまじ自分に悪意を込めて絡んできた人間は叩きのめしてしまえるほどの喧嘩の腕もあったため、
生意気だなんだと更に絡んでくる人間が増えて今に至る。
兄貴は恐れられているのにな、と、白豹という異名をつけられている兄と自分の現状を内心で比べるのもいつもの事だ。

「オマエに面子潰されたからよ、皆でお礼しに来てやったんだよ」

「怖かったらお兄ちゃん呼んできてもいいんだぜなまえちゃんよぉ!」

まるで品性のない声の大合唱に、なまえは眉をひそめてリーダーのような男を見る。
よくもまあたった1人、それも中学生相手にこのような数を揃えたものだ、
それこそ面子が丸潰れだろう、と内心でそんな事を思いながらなまえは一歩前に出た。

「ああ?なんだぁ?今更詫びようったってそうはいかねぇぞ」

「詫びるつもりなんてないけど。
 オマエの事ぶっ飛ばせば早いなって思っただけだよ」

じっと見据えながらそう言ったなまえに相手がわかりやすく憤怒した事を皮切りに、
なまえと周りの不良達の多対一が始まった。


それなりに目立つ場所ではあったが、今の渋谷においてはこんな事は日常で、
自分には関係ないのだと周りの大人はそれが異常という認識をする事を忘れてしまった。
ただ、この騒ぎに感づいて遠回りを選択するだけだ。
誰でも自分の身が可愛いのだと、泣きながら助けを求めていた幼い頃から、なまえはよく知っていて。

「大っ嫌いだ」

目立つ上にナメられやすい自分の見た目も、それを助長させる有名すぎる兄も、
群れて一人を攻撃する奴等も、見てみぬフリをする周りの大人も、面白おかしく噂をしては話もしてないうちから避ける学校の奴等だって
全部全部大嫌いだと、なまえは半ば八つ当たりのようにその気持ちを拳に乗せていた。

「っの……!いい加減に、しやがれ…!!」

「っ!!」

それ故に視界が狭まってしまったのか、何人かを倒した頃、なまえは後ろから鉄パイプのようなもので殴り付けられてその場に倒れてしまう。

「オレらはオマエに仕返ししに来てんだよ。
 何一丁前に反抗してくれちゃってんだ?」

「……は……無抵抗の奴リンチするより、言い訳できんじゃねーの……」

「……テメェ……!」

「っあ゛……ッ!!」

屈するのが嫌で尚も相手をねめつけながら口の減らないなまえの腹へと思い切り踵が落とされて。
なんとか抜けようと踠いてもびくともしない相手に、
なまえは悔しげに唇を噛む。

そこからはもう、ひどく一方的だった。

殴られ、蹴られ、好きなようにいつかなまえに負けた腹いせをその身体に浴びせて。
白い肌が血や痣で染まる面積が広がってきてもお構い無しの凄惨な光景。
兄ならきっと、こんな圧倒的な人数差だろうが勝ってしまうんだろう。
ここで敗けるから自分は兄のように恐れられやしないのだと、
意識が遠退きそうな身体中の痛みから逃れるようになまえがそんな事を考えていた時だった。


「いくらなんでもやりすぎじゃねーのか、ソレ」


なまえの人生で初めて、見てみぬフリをしない声がかけられた。