興味2
「抜け」


総隊長、京楽、浮竹の三人が同時に刀を抜く。しかし、総隊長の方が一瞬動きが速かったようで、筋肉でがっしりとした腕で刀を一振りすれば、その剣圧だけで私たちの身体は吹き飛ばされた。


「う、わ…っ」


空中で体制を建て直そうとしたとき、横から伸びてきた腕に抱きかかえられる。とっさに彼の羽織を掴むと、ザザッと地面を削りながらそのままひざを着いて着地した。
ちょっと……びっくりしたな。


「ありがとう」
「ほら、言わんこっちゃない……」
「どういうつもりじゃ。お主ら、斬魄刀も解放せずに、この儂と戦う気か?」


その言葉に、京楽の方を向いて羽織をちょんちょんと引っ張る。


「もしかして私がいるから……とか?」
「んまぁ、それもあるけど」


私に目配せして苦笑する京楽。
そんなの気にしなくてもいいのに。むしろ私はそれが見たくてここにいるってのもあるんだから、どっちかって言うと解放して欲しい。



「……どうしても戦わなくちゃ駄目なのかい、山じぃ」
「黙れ。教えたはずじゃ、正義を忽せにする者をわしは許さぬと」
「自分の正義を貫けと教えてくれたのもあんたさ、山じぃ」


京楽の表情……。笑ってはいるけれど、纏う霊圧はいつもと全然違う。ピリピリと緊張が漂い、でも凄く戸惑いも感じる。
そして、それは隣の浮竹も同じ……。


「そのために力を付けろと教えてくれたのも貴方です、先生」
「戯けるな。世界の正義を蔑ろにしてまで、通すべき己の正義など無い!」
「ならば、世界の正義とは何ですか!!元柳斎先生!!」


正義正義って、よく分からない。京楽たちは己の正義、総隊長は世界の正義、いったいどう違うというんだろう。
正義を守って、どうなるというのだろう……。
私はそんなこと考えたこともなかった。


「京、楽……」
「ちょっと難しい話をしちゃったねぇ」


京楽に支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。


「聞き分けが無いのう。言うたじゃろ、問答は仕舞いじゃ!」


刀を地面に突き刺し、白羽織を脱ぎ捨てた総隊長の霊圧が今まで以上に膨れ上がる。

そして……、


「あ……」


総隊長の身体が巨大な紅い炎に包まれた。その中で、総隊長が円を描くように刀を振ると、強烈な熱風とともに私たちの周りは炎に囲まれた。
始解でこんなに大きな炎を出せるなんて、私なんかとは比べものにならない。


「っ」
「コウちゃん」


炎から遮るように、京楽はコウを抱きしめる。
あまりの炎にさすがの浮竹も顔を覆う。

コウはといえば、同じ炎系の刀である鬼百合が総隊長の炎から守ってくれているらしく、刀身が青く光っている。
刀の威力は桁違いに弱いかもしれないが守ってくれる分には十分で、そこまで総隊長の炎を熱くは感じなかった。




「万象一切灰燼と為せ『流刃若火』」


さっきまであんなに晴れ渡っていた青空が今は全く見えず、ゴウゴウとけたたましい音しか聞こえない。炎に囲まれて、瀞霊廷の建物がどんどん端から崩れていく。


「コウちゃん、本当に大丈夫かい?」
「うん…」


大丈夫だと頷いて自分の斬魄刀をきゅっと握る。


「どうした。お主等も早よう刀を解かんか」


京楽に守ってもらっているとはいえ、容赦のない熱風と火の粉に顔を歪めると、
頭上から京楽の溜め息が聞こえた。


「仕方無いね…。行くか浮竹」


浮竹の表情を伺い見ると、あの床に伏せっているいつものそれとは全く違う覇気が感じられた。
そしてついに覚悟を決めたのか、斬魄刀をゆっくり引き抜いた。


「波悉く我が盾となれ 雷悉く我が刃となれ 『双魚理』」


開口とともに浮竹の斬魄刀が二つに分かれた。分裂する刀……京楽の花天狂骨は何度か見たことがあったが、浮竹の解放を見たのは初めてだった。

「コウちゃん」


浮竹の解放をじっと見つめていると、上からの京楽の声に視線を上に向けた。


「こりゃまた…見事に囲まれちゃったねぇ。コウちゃん一人で脱出できるかい?」
「うん大丈夫。斬魄刀に力借りるから」
「そりゃ良かった」


ふわりと微笑んだ京楽にポンポンと頭を撫でられる。昔からこうやって頭を撫でてもらうとすごく安心していたのを思い出した。
いつもいつも……私なんかの事までちゃんと考えてくれて、わがままを聞いてくれて、
……ありがとう、京楽……。

頑張ってと伝えるようにコウが抱きつくと、しっかりと抱き返してくれた。
そして、「気を付けるんだぞ」と心配してくれる浮竹に頷いて、コウは後ろへ数歩下がった。




「花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う 『花天狂骨』」


京楽の刀、花天狂骨。久々に見たけど、やっぱりすごい……。いつだったか、京楽の解放を初めて見た時はすごく驚いたのを覚えてる。一本の刀が二つになっちゃうんだもん。


「双魚理、花天狂骨。魂界全土にただ二つの、二刀一対の斬魄刀。流石に壮観なり。変わっとらんのう、昔と」
「そいつぁどうも」


「コウちゃん、今度こそ離れてくれないかい?」
「うん」
「……今度は素直だね」


拍子抜けしたように眉を下げる京楽に苦笑い。
解放が見れたからもう満足だし、これ以上居れば本当に戦いの邪魔になってしまうから離れるよ。


「覚悟は、良いかの」
「いつでも!」


三人が踏み出したと同時に、私も地面を強く蹴る。そして、素早く斬魄刀を抜くと同時に目の前の炎の壁を薙払い、自分が通れるほどの隙間をつくるとそこから一気に駆け出した。

後ろから聞こえる爆音に顔を歪め、振り返ると目に見えて激しい霊圧の衝突。


(無事で、いてね)


祈るように斬魄刀を握りしめ、後ろ髪を引かれる想いでその場を後にした。


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