ルークを欠いた一行はアッシュを仲間に加えて、ユリアシティから外殻大地へと戻った。
 ヴァンの行方を追うべく一路ワイヨン鏡屈に向かうことになったが、一部を除いて一行はルークを置き去りにしたことを気にかけていた。

「ルークの奴……目を覚ましたかな」

 陸上走行艦タルタロスの艦橋に詰めていた――音機関に詳しいことが判明し、不測の事態に備えるべくジェイドに付き合わされた――ガイは表情を曇らせてこぼした。ガイと同じ顔をしたのは導師イオンだけで、自然と、二人は話し合っていた。

「そうですね……いきなり倒れたから心配ですね」
「まさかあいつがレプリカだったとは……」

 ここにくるまで、ガイたちはジェイドからレプリカの説明を受けていた。
 まったく想像さえしてなかったルークの正体に、ガイは絶句し、ナタリアは変わり身速くアッシュをルークと呼んだ。
 イオンは目を伏せて「……僕はなんとなく気づいてました」と言った。

「気づいてたって……それは本当なのか? いったいいつから」
「僕がルークの正体に確信を抱いたのはデオ峠です。リグレットが僕たちを襲ったとき、ルークを出来損ないと呼んでいたので……レプリカは被験者より劣化して生まれるのが通説ですから。そうですよね、ジェイド。……あなたも気づいていたでしょう」

 ジェイドはすこし間を空けて頷いた。

「……ええ、まあ。正直に話すと、タルタロスが襲撃された時には勘づいていました。確証を持ったのは、コーラル城です」
「そんなに早くから……!? 旦那、あんたがもう少し打ち明けてくれれば、こんなことにはならなかったんじゃないか!?」
「……返す言葉もありませんね。その件については申し訳ないと思ってます。……ルークを糾弾して置き去りにしたことも。アクゼリュスが崩壊し、私も、冷静ではいられませんでした」
 
 素直に自らの非を認めるジェイドにガイはグッと黙り込む。代わりに端を発したのはアニスだ。

「大佐は悪くないですよ! アクゼリュスが崩壊したのはルークのせいなんだから! あいつ、自分は悪くないって言い逃れしてたじゃないですか!」
「……アニス。アクゼリュスが崩壊した一因は僕にもあります。ルーク一人が悪いわけじゃないんです」

 言いにくそうにイオンが口を挟む。罪悪感と後悔に苛まれ、導師は沈んだ顔をしていた。

「え……!?」
「あの時、言い出せなかったけれど、パッセージリングにはセフィロトの封印を解かないと近づけないんです。その封印は導師にしか解呪できない。……僕は、ルークの言葉を……ヴァンを信じるルークの言葉を信じて、その封印を解いてしまいました」
「そんな……でも、あのお坊ちゃんの言葉を信じただけで、イオン様は悪くないんじゃ……」
「それを言うなら、ルークも悪くありません。ルークはヴァンを信じてたんです。僕はそのルークを信じた。ただ、それだけだったんです。……僕にもルークにも悪意があったわけじゃない。ルークは、街を救うために、超振動を使ったんです」
「どういうことですか? ルークは、ヴァンに騙されて考えなしに超振動を使ったのでは?」

 ジェイドが険しい表情で尋ねる。イオンはハッと瞠目した。ジェイドたちはルークが超振動を使用した本当の理由を知らない――と、ようやくこのとき思い至った。

「いえ、ティアはたしかにそういってましたが……。ルークはあの時、超振動を使えば街の障気を消すことができると言ってました」
「超振動って物質を破壊して、再構成する力ですよね? そんな危ないもの使って障気を消すなんてふつう思わないんじゃないですか? やっぱり、あいつが考えなしだったんじゃ……」

 アニスはルークのみを批判しているつもりだが、イオンにも矛先が向かっていることに気づいていなかった。ガイは三人の話を聞いて苦い笑みをこぼす。

「ふつう、か……。それならルークがわからなくても無理はない。あいつは七年前に公爵家に連れてこられてから、歩行訓練だの礼儀作法だの生きるために必要なものを覚えるのに精一杯だったからな……。物心つく頃には、インゴベルト陛下の命令でつい最近まで家からずっと出れなかったし。あいつが勉強に関心が持てなかった理由も、それが一つの原因だと思ってる」
「勉強サボってたんじゃないの?」
「それは……どうだろうな。ただ……見ている限り、ルークは勉強がつまらなかったようだ。俺は無理もないと思うがな」
「えー?」
「ルークは誘拐前と誘拐後の勉強が変わらなかったんだよ」

 イオンは目を丸くする。アッシュはわずかに顔を顰めた。彼以外の誰も知らないことだが、ルークの意識は今繋がっている。アッシュが一行の話を聞いているように、ルークも聞いていた。

「それは本当なのか?」

 アッシュは意識がつながっているルークに話しかけたつもりだったが、答えたのはガイだった。

「本当さ。……ナタリア姫もルークによく教科書を見せていたよ」

 ナタリアの変わり身の早さに思うことがあるのか、ガイが嫌味たらしくナタリアを姫と敬称付きで呼んだ。旅が始まってから縮められた距離感は、一気に離されたらしい。とうのナタリアだけ気づかず、アッシュを気にしながら弁明した。

「わたくしは、早く約束を……記憶を取り戻してほしかったのです」

 ガイは肩を竦めて、アッシュは表情を固くした。彼女の本音がどこにあるのか、アッシュ自身理解してしまったのだ。ナタリアは記憶を取り戻してほしいと健気さを装ったが、裏に潜んでいるのは身勝手な思いだ。
 彼女が見ているのは”約束を覚えているルーク”であり、今のルークでも、アッシュでもない。
 イオンは戸惑った様子でガイに尋ねた。

「あの、歩行訓練や礼儀作法って……ルークはそんなことも知らなかったんですか?」
「ああ……そうだが」
「……レプリカには刷り込み技術があります。それをされていれば、ルークは最初から歩けたはずですが……」
「え? だがルークは歩けなかったぞ」
「刷り込み技術なんて聞いたことありませんね」
「え、そんなはずは……」

 イオンの発言を否定したのはジェイドだった。アッシュとイオンは、ジェイドがレプリカ技術の生みの親であることを知っている。話が噛み合わずに三人は顔を見合わせた。ガイ、アニス、ナタリアは困惑して三人を見回す。
 イオンはしばらく黙っていたが、ややして、意を決したように口を開いた。

「……実は……僕も導師イオンのレプリカの一人です。被験者導師イオンは三年前に病死で亡くなり、僕らが作られました。僕ら導師イオンのレプリカは全員刷り込み技術で、一般知識をはじめとした導師イオンが覚えているはずの知識を覚えています。だから僕はルークも刷り込み技術で知識を与えられていたと思っていたんですが……ルークはもしかして、本当にゼロからの状態で……?」

 導師の正体を知り一同は驚愕した。中でも導師守護役のおどろきは深く、血相を変えていた。アニスは外殻大地に戻ってからというものの、レプリカであることを理由に何度かルークを罵っている。アクゼリュスを崩壊させたというのに犯罪の自覚を持たず、言い逃れをしたルークに腹が立っての罵倒であったが――レプリカとして生まれたことは、ルークには責任がない。イオンもそうだ。
 だというのにアニスは罵倒の理由にレプリカを使っていた。自らが人種差別していたことに、アニスは気づいて口を結んだ。

「……ルークが連れてこられたのは七年前と言いましたね?」
「あ、ああ……」
「……レプリカは理論上、被験者の記憶や経験を継承させることはできません。刷り込み技術はその理論を覆している。おそらく、刷り込み技術はレプリカ技術が進化した過程で生み出されたものでしょう。私には、それが出来る人間に心当たりがいます。……話を戻しますが、当時のルークの状況を聞くと、ルークは刷り込み技術が生まれる前に生まれた可能性が高い。そうだとすれば、当時のルークは外見は十歳でも、実際の年齢は0歳児……つまり、赤ん坊ですね」
「ルークが赤ちゃん……?」 
「刷り込み技術により記憶や経験が継承されていれば、ルークが誘拐前のルーク――いえ、アッシュのように振る舞うのは難しくなかったでしょう。導師イオンのように」

 ジェイドの視線がアッシュに向かう。

「良かったですね、アッシュ。ルークに刷り込み技術がされていれば、おそらく誰もあなたが”被験者ルーク”であることを証明できませんでしたよ」
「――っ」
「ジェイド、何を言うのです! そんなことはないですわ!」

 ナタリアが咄嗟にアッシュを庇う。アッシュは顔色をなくして黙り込んだ。
 ジェイドの発言は正しい。アッシュはレプリカルークが生まれてから一度家に戻っている。その時彼は自身のレプリカが”ルーク”として受け入れられる光景を見てしまった。もしルークに刷り込み技術がされていたら、誘拐前の己のようにナタリアたちと過ごすルークを見て自身の存在を疑っていただろう。己の記憶が間違っているのではないかと……。

 ジェイドの話を聞いていたイオンとガイは青褪めた。アニスも戸惑っている。

「じゃあ今のルークって……七歳の子供なのか? そんな子供を俺たちは……。――戻って、いや、降ろしてくれ! ルークのことを放っておくなんてことできない。俺は戻る」
「――僕も戻ります! ルークに謝らなくては」
「……そうですね。戻りましょう」

 ジェイドがガイとイオンに追従する。アニスは困惑してイオンとジェイドを交互に見ていた。

「おい、ヴァンの動向を探すのはどうするつもりだ」
「ピオニー陛下に手紙を送り軍で調べてもらいます。たしかに彼の行方は気になりますが、わざわざ私たちが探る必要はありません。ナタリア殿下、あなたもインゴベルト陛下に手紙を」
「え?」
「勝手に城を脱け出したのでしょう? アクゼリュスが崩壊し、親善大使に同行していると思われる王女のことを陛下は心配されているのではないですか?」
「あ……」

 ナタリアがようやく思い至ったように呆然としていた。アッシュはナタリアが無断で城を脱け出した事実におどろいていた。
 ワイヨン鏡屈からアクゼリュスまでの道を引き返す。もう一度タルタロスを地核に落とすわけにはいかず、一行は手紙を送るべくダアトに立ち寄り港に陸上走行艦を置かせてもらってから、アラミス湧水洞のユリアロードを経由してユリアシティに戻った。


END.

イオンとジェイドはルークの正体を知っていてもその認識は異なりそうだと思って生まれた話。
ジェイドは刷り込み技術を知らないから、ルークがレプリカだと気づいた段階で実年齢が7歳という考えが頭にある。イオンは自分たちが刷り込み技術を受けているから、ルークは被験者から記憶と知識を継承していると思っている。だから7歳とは思わないし、公爵家で大切に育てられたから精神年齢が幼いのかな、という感覚。

続きそうな終わり方だけど一応ここで終わりです。
(実は2話目も半分だけ書いて放置してます。これ続きいります…?)

2018/03/05
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